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■海外研修の準備のために~文化庁の支援制度ガイダンス07年版~ |
この記事は、2007年12月4日に開催された「海外研修サポートセミナーVol.2 ~ガイダンスと交流会」の記録をもとに加筆しました。文化庁の研修制度については、大きな枠組みに変更はないものの、毎年、募集要項には若干の変更がありますので、ご注意ください。発言者の肩書等は当時のものです。
研修計画をたてる前に考えること |
後藤美紀子(芸術分野海外研修サポートプロジェクト)
「芸術分野海外研修サポートプロジェクト」は、海外で研修したいと考えている芸術関係者に情報を提供し、また、海外研修の経験のある人たち同士が情報を共有しあうことをめざして、2004年度から3年間、セゾン文化財団に助成金を頂いて、成果報告会を開催したり報告書を作ったりしてきました。今年度からは、芸団協が引き継ぐ形で、成果報告や海外研修を考えている人のためのガイダンスの機会・交流の機会をもつことになりました。「芸術分野海外研修サポートプロジェクト」は、発展的に解消し、2008年度より新たにArts Managers’Netとして活動を継続しています。
海外研修についてのガイダンスは、本プロジェクトが作成した「海外研修留意事項チェックリスト」に そって説明をしたので、併せてご覧ください。
最初に申し上げたいのは、自分のキャリアを築く上で、研修に行くのにふさわしいタイミングを考えるということです。
基本的に、これから文化庁の方にご説明いただく「新進芸術家海外留学制度」(注:平成 年度以降は、新進芸術家海外研修制度に名称変更。以下、在研と略称)は、実地研修であり、また、人生のうち何度も採用されるものではないので、それを前提として、いかにそのカードを有効なタイミングで切るかということを考える必要があると思います。ジャンルによっても違うとは思いますが、例えば、アートマネジメントの場合、日本での現場の経験が浅い段階で海外に行ってしまうと、自分の中に比較対照する例が少なく、せっかく行っても見えてくるものが少なかったりします。つまり、得るものが少ない、と。ですから、ある程度の仕事としての現場の経験があった方が、研修で見えてくるものが多いということもあります。そう考えると、なにがなんでも海外に行きたい、というのではなく、自分のキャリア形成を考えた上で、どの時点で研修に行くのが自分にとって一番有効なのかという作戦を、まず考えるべきではないかと思います。
語学も質問が多かった項目です。文化庁の在研では申請時に語学の試験はないのですが、現地のことばが出来るということは必須です。研修先の方とコミュニケーションを取ったりする上で、先方が仕事をしているところに研修にいくのですから、ことばが分からないということは、先方にもストレスを与えることになり、これは大変失礼なことです。それと同時に、日常生活においても、現地の情報が分からないということは、自分にとって大きなストレスになります。海外で生活することは、生活習慣の違いなどストレスフルなことなので、語学が出来ないとそのときに生まれる誤解を解くこともできません。こうした理由から、実際一度留学などをした都市を研修先に選ぶケースも多いようです。
査証(ビザ)、あるいは滞在許可については、各国がテロ対策、移民対策を厳格化することで、年々システムか変わったり、厳しくなったりしています。私どものサポートプロジェクトにも、お問い合わせが多かった項目です。「問い合わせ先さえ分からない」という方もいましたが、これは必ず自分で先方の国の大使館・領事館に問い合わせをしてください。研修の形態や期間によって、ビザの種類が変わってくることもありますから、「先輩がこう言ったので」というような伝聞の情報で行動せず、事実を確認して、大使館・領事館の指示を仰いでください。
自己資金の問題も、関心が高い項目だと思います。これは、実際にアンケートを実施したのですが、在研の経験者でも、自己資金を用意されていました。在研は、日本円で支払われるのですが、通貨の換金レートが変動することで、現地で手に出来る金額が予想より少なくなる場合もあります。私自身の経験ですが、研修期間中に第二次湾岸戦争が勃発した影響で、円が下がって、非常に苦慮しました。さらに、これはもちろんない方がいいわけですが、ご家族に不幸などがあって、急遽帰国する必要出てくることも考えられます。ですから、そういった不測の事態を考えて、日本に帰国できるくらいの現金は必ず手元に置くようにするとよいと思います。
また、海外研修は、帰国したときに終わるのではなく、実はその成果を日本に戻ってどのように活かすか、というところまでが問題だと思います。アーティストの方は、それぞれの才能を花咲かせていただければいいわけですが、いずれにせよ、花が咲き、実になるまでには時間がかかります。周囲からは、目に見える成果を期待されがちなので、本人としては、成果を形にすることを焦ったり、そのためかえって日本と海外とのギャップに失望したりすることで、形にすることをあきらめてしまうこともあると聞いています。この点について、ぜひとも強調しておきたいのが、研修で得た成果を国内で実現するまでには時間がかかり、それを実現するまで自分を支える精神力の強さが、海外研修に絶対に必要なことだということです。
芸術分野海外研修サポートプロジェクトの活動と私自身の経験については、セゾン文化財団viewpoint No.39 (http://www.saison.or.jp/viewpoint/01.htmlでバックナンバーを参照のこと)「あったらいいなを形にする ― 海外研修をもっと有効に活用するために」という原稿にまとめましたので、海外研修をお考えの方はご一読ください。
文化庁新進芸術家海外留学制度について |
(平成20年度 新進芸術家海外留学制度の募集案内を配布資料にして説明していきました)
[制度概要]
畑中 裕良(文化庁芸術文化課支援推進室長・当時)
文化庁の「新進芸術家海外留学制度」は、その前は芸術家在外研修員制度といい、「各分野の若手芸術家等に、海外で実践的な研修に従事する機会を提供することによって、わが国の芸術文化の振興に資する」という趣旨に基づき、昭和42年度に発足し、最初は3名を海外に送り出すことからスタートしました。今年度は158名が研修員に選ばれ、制度のスタート時からののべ人数は2500名以上。この制度により海外で研修されてこられた方には、日本の芸術界の第一線で活躍されている方が大勢いて、長年の間に成果が続いている制度です。
名称は、「新進芸術家海外留学制度」(平成14年度から在外から海外研修と変わった)といいますが、支援対象の費用は、渡航費と滞在費。留学の学費などを含むものではありません。
募集要項の概要に書いてありますが、派遣期間は4種類あります。この制度で海外に派遣される方は、「研修に専念する義務」があります。観光気分で海外に滞在しているのではないか、というような誤解を招くことはやめてほしい。税金を使って派遣してもらう制度だということをよく理解してほしい。(最近は、ブログで日記を公開するというような方がいて、研修中の研修員の人が書いたブログを見た一般の方から、このような遊びに行っているような人に税金を使っているのかというお叱りをいただいたことがありました。常に国民の目にさらされているのだということを自覚してほしい。研修に専念する義務をしっかり果たしてほしい。)
語学力については、重視している。充実した研修ができるためには、語学力が相当程度備わっていることが条件なので、申請書の様式1に、語学のレベルを自己評価で記入する欄がありますが、語学力があまりないということのないようにしてほしい。 国内でできるような研修を、わざわざ海外でする必要はないので、国内で出来ることは国内でする、海外に行くには、それなりの覚悟を持って行っていただきたい。
[募集案内にそって]
内村 太一 (文化庁芸術文化課支援推進室育成係長・当時)
概要については、畑中室長の説明にあったように、支給されるのは、渡航費と滞在費であり、滞在費は、地域によって、支給される額が決まっています(P.7)。為替レートの問題もありますが、昨今、物価の上昇が激しいといわれる都市、例えばロンドンなどでは、この額では足りないといった声をいただくこともありますが、表に示された滞在費以上には支給されませんので、ご留意願いたい。
「研修に専念する義務」について、室長からも指摘がありましたが、海外で公演に出演すること、仕事をすることを支援する制度ではなく、「研修」のための支援制度です。また、「実践的な研修に従事する機会の提供」を目的としています。アートマネジメントの場合は、多少、学術的な留学になるかもしれませんが、原則として学術研究への支援ではありません。
派遣分野および募集人員は、案内にある表のとおり(P.5)。アートマネジメントについては、独立した部門がないので、美術、音楽、舞踊、演劇といったそれぞれの分野のいずれかを選択して応募していただくことになっています。その際、推薦書の「芸術上の師事者」の欄は、職場の上司や、日常の仕事ぶりについて知っている方に書いていただくということになると思います。
応募資格について、P.6にありますが、派遣期間によって、または分野によって、年齢制限に違いがありますのでご注意ください。また、この制度は、特別派遣を除いて、一生に1度しか利用できません。一度、この制度を利用した方は、1年、2年、3年派遣の応募資格はなくなります。また、専門とする分野で芸術活動の実績があること、となっておりますので、ご自分のキャリアの中で、どの時点でこの制度を利用するのがいいのか、よく考えてください。また、特別派遣については、一年派遣などより通りやすいという誤解があるようですが、これは主に経験を積んだ方のリフレッシュを目的としたものですので、お間違えのないようにお願いします。
語学力については室長も指摘しましたが、外国で生活し、研修に耐えうる語学力がないと、研修を修了できなくなるということになっては困ります。心身ともに健全であること、という記述もあります。海外での研修はかなりタフなものになると思いますのでよくご検討ください。
「渡航先の研修施設の受入保証があること」とありますが、受入承諾書をご自分で準備していただくことが、応募資格の重要な部分です。国によって、または受入機関によっては、受入保証の手続きが大変な場合もあるかとは思いますが、ご自分で交渉して準備することが要件になっています。採択されても、保証が取れなかったということで、毎年辞退をされる方が何名かはいらっしゃいますが、辞退される方のために不採択になる方がいるということを、よく自覚して、申請の際からご留意ください。
研修計画については、ご自分で作成してください。様式3という書類に記入していただくのですが、多くの申請書を見ていますと、ほんの2、3行だけ書かれているだけで、具体的な研修計画が見えてこないというようなものが多々あります。今年度は、500名ほどの応募がありましたが、その中で、欄をきちんと埋めてない方が多くいらっしゃいました。研修内容とともに、具体的な研修の方法論、アプローチというものを必ず書いてください。特に、マネージメント分野の方は、そこでご本人のプレゼン能力が問われますので、ご留意ください。
研修地は、原則1箇所ですが、事情があり複数にする場合は、その移動にかかる費用は自己負担となります。複数になる場合は、1箇所、1枚の研修計画書が必要になります。
「研修に専念する義務」に関することですが、原則として研修地又は研修地を離れたところで、他の仕事に就くことは認められません。研修に従事することにより、収入を得る場合は、本制度の対象となりません。
原則として一時帰国はできません。ただ、ご家族にご不幸があった場合、研修員の方自身が大きな病気にかかった場合などは例外です。
応募方法について:
推薦団体や都道府県担当部署を通じて応募してください。団体、自治体によって、締め切りが異なりますので、ご確認のうえ応募してください。提出書類は、P.9の一覧のとおりです。添付資料については、分野によって資料の形式が指定されていまして、P.14に、示してあります。DVD,CD、写真等の形式は、この表に従ってご準備ください。
注意事項:
研修計画は原則として変更不可ですから、応募時に、よく検討の上、計画をたててください。外国に滞在するために必要な査証(ビザ)は、ご自分で取得してください。手続きは応募の際に、あらかじめ取得可能かどうか、ご確認ください。国によっては、取得にかなり時間を要する場合もありますので、ご注意ください。派遣に決定した方には、文化庁から、5月に在外研修員であることを記載した英文証明書を発行します。
<質疑応答から>
Q ロシアを訪問した際に、ロシアにきて演奏をして欲しいといわれたが、この制度は利用できるか?
A これは、「研修に従事すること」を支援する制度なので、海外で演奏活動を行うことは対象になりません。それは、国際交流支援事業等の別事業で、該当する場合があるかもしれませんし、文化庁以外では国際交流基金が、海外公演の助成制度を実施しています。
Q 演出家・劇作家なのだが、添付資料にDVDではなく戯曲を添えて出すことはできるか。
A 審査過程では、まず様式に書かれている内容で書類選考をし、ある程度絞り込まれた段階で添付資料を見るということになります。審査員は限られた時間で資料を見ていくので、提出されても、審査員全員が読めるような状況にはならない可能性があります。まずは、様式にしっかりと必要事項を書き込むことが重要です。
Q 海外での研修の受け入れ先は、個人でもよいということだが、受け入れ先と推薦者が同じということでもよいのか?
A そういう場合もありますが、推薦書が客観的であるためには、受入者以外の推薦がある方が、より良いと思われます。