鑑賞教室の現状と課題

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昨今は、子どもたちが自ら体験する参加型事業が注目されるようになってきたとはいえ、舞台芸術鑑賞が芸術体験として劣るということはありません。

鑑賞と表現は、息を吐き出すのに、まず吸うことが必要な呼吸と一緒で、自ら表現できるようになるには、まず受け止めること、感じることです。

優れた芸術表現に触れて心が動く体験なくして豊かな表現力は育まれないでしょう。

 

また、鑑賞は受動的な活動とみられがちですが、舞台上の演技者に感情移入しながら観劇したり、美しいハーモニーに身をゆだねたりしながら、鑑賞の間中、脳内では能動的な活動が行われています。

日本には、せっかく多様多彩な芸能がありますから、子どものうちから、多様多彩な芸能に触れる機会が提供できるようにしておきたいものです。

 

そこで、学校で行う鑑賞教室の実施状況に注目してみると、平成14年度が70.3%(全回答学校数=13,774校のうち)、平成19年度68.9%(全回答学校数=20,237校のうち)、平成22年度が66.1%(全回答学校数=25,970校のうち)と、減少傾向にあります(いずれも文化庁調査だが任意回答。調査手法に若干の相違があるので比較には留意が必要)。

 

鑑賞教室は、全校で義務付けられているものではないわりには実施率が高いといえますが、その費用が学校運営費に組み込まれている場合は少なく、多くが児童生徒に費用負担を求める傾向にあり、したがって、小学校、高等学校においては児童生徒数の少ない小規模校では実施率が低いなどの傾向がみられます(平成19年度調査*)。

これに対して中学校では、生徒数の多寡にかかわらず実施率は一定しており、小学校、高校より低い傾向が見られます。

 

費用負担については、支払った学校数は平成14年度調査では全体の67.3%(全回答学校数=9,687校のうち)、平成19年度調査では、65.9%(全回答学校数=13,943校のうち)だったのに対し、平成22年度調査では55.0%(全回答学校数=25,970校のうち)と、他からの支援が拡大している傾向が見てとれます。

負担をしなかった理由として、教育委員会が負担(47.4%)、公立文化施設が負担(11.4%)という回答が注目されますが、それに次いでボランティア、アマチュアグループだったからという回答も10.6%あります。

 

学校が費用負担する割合が減っているのは、子どもの芸術体験が重視されるようになって社会全体で支えていこうという傾向の表れとみることもできるでしょうが、実施率の低下や地域差、鑑賞教室の質についての課題は依然として残されています。

 

 

*平成14年、19年度調査は文化庁委嘱事業として芸団協が実施。

 
 
 
 
 
写真は上)『銀河鉄道の夜』(東京演劇アンサンブル公演)
   下)『ねこのくにのおきゃくさま』撮影:青木司(オペラシアターこんにゃく座公演)