舞台芸術の組織と法人格

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「法人」って何?

 

 法人とは、簡単にいうと、法律によって人格を認められ、権利義務を認められた組織のことです。具体的には、株式会社や協同組合など、法人として登記を行っている組織です。通常、事業を行っていくには、人格を認められて契約の主体となれる方がやりやすいので、個人事業主として行っていくこともできますが、組織として事業をするには法人格を得て展開していくのが一般的です。 
 
 けれども、舞台芸術の創造を行う芸術団体は、必ずしも経済活動を行う事業体を出発点とはしていません。「表現したい!」「作品をつくりたい!」という欲求が一番先にあって、俳優などで構成する劇団、音楽家で構成する演奏家集団、オペラ団体、舞踊家によるダンスカンパニーなど、舞台芸術をつくりたい芸術上の同志である実演家がつくった集団としてスタートしていることが多いのです。とはいっても、公演活動を続けていくには、組織として契約の主体となれた方がよいです。特に地方公共団体と契約を結ぶ際には法人格が求められることが多いです。第二次大戦後、各地で児童青少年演劇の鑑賞教室の公演が拡大した時期に、劇団の多くが法人格を取得しました。ただし、当時、我が国では、芸術団体に相応しい法人制度が確立されていなかったので、営利を目的としていないけれども営利法人の法人格を得て活動している演劇集団が多く生まれたという経緯があります。一方、協賛金や寄付を集めなければ活動が難しいオーケストラやオペラ、バレエ団体などは、非営利法人で公益活動を行う組織として法人化が奨励された時期があり、財団化が比較的早く進んでいました。

 

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「法人格」がないと芸術活動はできないの?

 

 一般に、法人格がなくても、
 
・組織の「定款」に相当する規約があって、
・代表者が決まっていて 
・所在地の住所が明らかで
・自ら経理し、監査する等会計組織を有する(そのルールが規約等で明らかにされている) 
 
という要件が充たされていれば「人格なき社団」として、法人格があるのと近い組織として扱われることがあります。  
 
 芸術団体の中には、任意団体でも、税務署が「みなし法人」として扱い、税務処理をきちんと行ってきて実績を重ねている団体もあります。ただし、不動産や電話などの契約をする際には、集団名では契約の主体となることはできませんから、代表者や構成員が個人名義で契約することになります。
 
 よく、芸術活動を行っていくうえで、「法人格」を取得した方がよいのでしょうか、という質問を受けますが、活動実態がないのに「法人格」だけを取得しても、法的手続きなど事務処理の負担ばかりが増え、実状に合わないということにもなりかねません。「法人格」がなくても、上記のような実態があれば、法人格があるのに順ずる扱いを受けられるということを覚えておくとよいでしょう。
「人格なき社団」=「任意団体」であっても、そういった最低限の社会的信頼性を確保する要件を備えていることが先決です。
 
 また、「法人格」があった方がいいと思われるのは、ある程度の活動規模があって、コンスタントに事業を継続していく意志と実現力がある場合だということを理解して、ご自分たちの場合に当てはめて考えられることをお薦めします。
 
 

「組織」と「集団」の違い

 

 公演活動は、ひとりで実現できるものではなく、なんらかの組織が必要です。 特定の公演、1回のためだけに集まる組織、つまり、あるプロジェクトのための組織というのもあれば、1回だけでなく将来にわたって継続的に事業をしていこうという組織もあります。実際には、何かの公演を実現するために有志が集まり、まずは単発で実施し、上手くいったからまたやろうということで続いていくというのが組織の最初のあり方だろうと思います。
 
 「実行委員会」という組織のつくり方もあります。個人や団体が横断的に集まり、何かを実現し、一定の目的を達したら解散するものです。多くの場合、実行委員会存続の期限が限られています。
 
 しかし舞台芸術を創造し、普及させていくには、継続的に事業を行う組織であることが重要になってくると思います。 継続ということが持っている意義は、以下のように考えられます。
 
・ ノウハウの蓄積、組織的な事務能力、成功するためのネットワークなど。
・ 複数の人間のいろんな思いが集まり、組織のカラー、方向性が固まっていく。文化が形成される。
・ 社会的な評価につながっていく。
 
継続という観点で考えるのは大事なことです。
 
 「ともかく作品がつくりたくて」というメンバーが集まってできた「集団」は、それだけでは、「組織」とはいえません。「集団」はただ集まっただけであり、あるひとつの目的のために同一価値観の人間が集まったものですが、「組織」には、次の点が加味されます。 
 
 (1) 共通目的があるか 
 (2) コミュニケーションが働いているか 
 (3) 構成員の貢献意欲があるか 
この3つが、組織の大原則といわれています。 
 
 舞台芸術を創造するには、異なる専門性を持った人たちが協力し合ってその力を発揮しなければなりません。専門性のなかには、経理処理もあれば、舞台技術についての知識と経験を踏まえた安全確保能力も含まれるでしょう。
 
 一回だけの打ち上げ花火ではなく継続的に活動することで、創造の質を高め、広範囲の人たちに享受してもらえる公演活動の展開へと発展させていくことが期待できます。芸術的に優れた才能のある人が一人いるだけでは、「組織」にはなりません。芸術活動に対する公的支援は、ある作品の芸術性だけではなく、それを再生産、拡大生産していく力があるかどうかという点も考慮されますので、実行委員会のような組織を助成対象に含めていないことが多々あるわけです。 

 

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法人格の種類~営利をめざすのか、めざさないのか

 

 営利を目的として活動する法人のことを、営利法人と総称します。「株式会社」は、営利法人です。(*有限会社も営利法人ですが、有限会社法は2006年5月1日に廃止されたので、新たに有限会社を設立することはできなくなり、法律上は、「特例有限会社」といい、株式会社の一部と位置づけられるようになりました。) 
 
 芸術活動をする人たちは、お金儲けのためにやっているのではない、芸術性のために、作品を発表したいからやっているのだというような人が多いです。ですが、法人が「営利目的」であるということは、経済活動の結果得られた利益を、出資者に分配すると規定している法人のことです。株式会社だったら、株の持分に応じて配当することです。ですから、自分たちは利潤追求をしていないと思っていても、株式会社という法人格をとっていると、一般的には、「営利目的」の法人と分類されます。
 
 

営利を目的としない法人格

 

 営利を目的としない法人のことを非営利法人と総称しますが、日本の法人制度に、「非営利法人」という法人格があるわけではありません。 非営利法人は、営利法人の反対で、「営利を目指さない」わけですが、法人格の定義との関係でいうと、経済活動で得られた利益を出資者や構成員に分配しないと規定されている法人です。 
 
 日本では、比較的最近まで、明治29年にできた民法34条で定められた公益法人制度が長らく続いてきたため、非営利でかつ公益性があると主務官庁が認めた場合でなければ公益法人格の許可が得られませんでした。主務官庁の指導監督を受けたくない、指導されるほど基本財産を持っていない、公益性があるかどうかわからないといった芸術団体は、なかなか非営利法人格を取得することができなかったのです。
 
 それが、まず、1998年にできた特定非営利活動促進法で、いわゆるNPO法人(=特定非営利活動法人)になる選択肢ができ、2002年には、中間法人という選択肢もでき、このほど、公益法人制度が大きく変わって、2008年12月1日以降は、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人の4種類の法人格が選択肢に加わりました。(これに伴い、中間法人は、一般社団法人に自動的に移行しました)。
(ちなみに改正前の民法34条による公益法人でない、類似の非営利法人は、実は、特別法により180以上あります。NPO法人もそのひとつで、私たちの暮らしに馴染みのあるところでは、学校法人、社会福祉法人、医療法人などがその例です。) 
 
 

そのほかの法人

 

 そのほかに、芸術関係の団体が選択する可能性がある法人の形態として、協同組合があります。これは、共通する目的のために、個人あるいは中小企業者等が集まり、組合員となって事業体を設立して共同で所有し、民主的な管理運営を行なっていく自治的な組織です。目的は、組合員共通の経済的、社会的、文化的ニーズなどを満たすことで、個別に掲げられ、相互扶助組織としての性格を基本とします。日本では、事業協同組合、生活協同組合、農業協同組合など、分野や組合員の種別に応じてそれぞれの協同組合法に基づき設立されています。相互扶助の理念に基づき営利は目的としていませんが、利益の分配は可能で、解散時は出資に応じて財産を分配することができます。解散時に財産を分与することを禁じている公益社団法人や特定非営利活動法人とはこの点が異なり、非営利性は徹底していません。しかし、法人税には軽減税率が適用されるなど優遇もあります。 

 

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法人格取得を考える前に、よく研究してください

 

 非営利法人の選択肢は増えましたが、いずれの法人格が相応しいかは、自分たちがどういう方向性をとり、どのようなビジョンのもとに活動していこうとしているのかによって変わります。法人格をとらないまま、任意団体として活動していくのが相応しいということもあるでしょう。 
 それぞれの法人格に求められている諸規定をよく検討して、選択されることをお薦めします。 
 
●芸術団体が、これから法人格をえらぶ場合の選択肢 
営利法人

株式会社

(このほかにも、合名会社、合資会社、合同会社などがあります)

非営利(相互扶助) 協同組合等・・・利益分配や残与財産分配が可能で、各協働組合法によって規定され、いろいろな種類があります
非営利法人(剰余金を分配しない)

財団・・・一般財団法人、公益財団法人社団

社団・・・一般社団法人 公益社団法人

 

 ※公益法人は、残余財産非分配で、非営利性の徹底が求められます  (その分、税制優遇制度が法人税にも適用されます)
 
 ※改正前の民法34条によってできた財団法人、社団法人は、5年間のうちに、いずれかの法人格を選択して、移行手続きをとる必要があります(さもなくば、2013年11月30日で解散となります)。
 
特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)
NPO法人(特定非営利活動法人)については

 

※このほかにも、広義の公益法人等はいろいろありますが、芸術文化活動にあてはまりにくいでしょう 

 

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新公益法人制度

 

 2008年12月1日、新しい公益法人制度がスタートしました。 
正確にいうと、平成18年5月に成立した公益法人制度改革関連3法が、施行されたのです。 3つの法律とは、 
 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」
 「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」
 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」 
といいます。 
 
 新制度は、民間の非営利組織が公益的な活動を積極的に行えるように、そしてこれまで主務官庁の裁量によって出されていた許可の不明瞭性などの従来の公益法人制度の問題点を改善するためにスタートするものです。
 
 具体的には、先ず、剰余金の分配を目的としない社団・財団は、登記のみによって法人格を取得できることとなりました(一般社団法人・一般財団法人)。
 
 次に、一般社団法人・一般財団法人のうち公益目的事業を行うことを主たる目的としている法人は、申請により公益認定を受けることができ、この公益認定を受けた公益社団法人・公益財団法人に対しては、公益活動を充実・拡大することも可能となる税制、寄附金優遇制度が整備されました。
 
 なお、一般社団法人・一般財団法人も、公益を担う非営利法人たり得ますが、事業面での制限がないため多様な活動ができる特長があり、その実態に即した法人制度や税制が整備されています。
 
 新しい公益法人制度は、舞台芸術の振興に大いに活用していけそうです。もちろん、今までどおり、営利活動として推進していったり、任意団体のまま活動することが相応しい団体もあるでしょう。 しかし、登記によって設立でき、税制優遇も得られる法人の選択肢が増えました。これを契機に、芸術団体がこれからめざすべき方向性、実現したいと考えているビジョンを見直し、自分たちの活動に相応しい組織のあり方を考え直してはいかがでしょうか。
 
(参考)
 

これまでの社団法人、財団法人は移行手続きを 

 

 民法で設立された現行の公益法人(財団法人、社団法人)は、平成20年12月1日から、法律上は特例民法法人となりました。そして平成25年11月30日までに公益認定を受けて新たな公益法人に移行するか、一般法人に移行するかの申請を行わなければなりません(移行までの間、名称は、いままでどおり名乗っていても差し支えありません)。 何もしないと法人は解散となります。この間、名称は「社団法人」あるいは「財団法人」でも、法的には変化が起こります。 
 移行に際しての手続き等については、公益法人行政総合情報サイトから左側の「申請様式、手引き」を参照してください。
 
 

これから一般社団、一般財団になりたい場合

 
 これまで任意団体だった組織は、新たな法に適った定款を作成し、法的な要件の確認のため公証人に認証を受け、登記すれば一般法人として設立が認められます。一般法人として活動を続ける場合は、定款で定められた貸借対照表の公告を年1回行うことが義務づけられていますが、その他、行政庁、主務官庁への報告義務はありません。
 
 次に公益認定を受け、公益社団法人または公益財団法人をめざす場合は、直接に行政庁へ公益認定の申請を行えば良いことになります。