第4回:芸術家のみなさんに知っていただきたい社会保障制度③
NPO法人Social Change Agency代表理事、ポスト申請主義を考える会代表、社会福祉士
横山 北斗
はじめに
第3回のコラムでは、生活福祉資金の貸付、住居確保給付金、生活保護といった、経済的に困った場合に利用できる制度についてご紹介しました。
今回は、医療費・療養中の経済支援制度に焦点を当てて解説します。病気や怪我で医療機関にかかる必要が生じたときに思い出していただけたら幸いです。
高額療養費制度
私たちはみな、前年度の所得や給与額、年齢によって、1カ月に支払う医療費の上限額が決められています。高額療養費制度は、1カ月の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、超えた分が後から(約3カ月後)払い戻される制度です。
例えば、怪我で入院し、手術を受けた場合を考えてみましょう。
医療費が100万円かかり、3割負担で30万円を支払う必要が生じたとします。この場合、所得に応じて定められた上限額(例:年収370万円以下の場合、約9万円)を超えた分が、後日払い戻されます。
所得ごとの上限額の詳細は、「高額療養費 上限額」と検索いただき、確認してください。
また、3カ月後に払い戻されるといっても、そもそも手持ちのお金が少なければ請求額全てを支払うことが難しい場合もあります。そういった場合は「限度額適用認定証」を事前に加入している保険者に申請して医療機関に提示すれば、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。
この制度は、国民健康保険や健康保険に加入している方であれば、誰でも利用可能です。
特定の病名に対する医療費軽減制度
うつ病や適応障害などの精神疾患で通院治療が必要な場合、自立支援医療(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担を1割に抑えることができます。
申請には、医師の診断書が必要で、市区町村の障害福祉担当窓口で手続きを行います。通院医療費と薬代が対象となりますが、入院費用は対象外となりますのでご注意ください。
また、対象となる病名も、自治体によって異なりますので、障害福祉担当窓口に確認されることをお勧めします。
このほかにも、難病医療費助成制度という、国や自治体が定めた疾病への治療等にかかる医療費を軽減する制度があります。
対象となる病名は「難病医療費助成制度 一覧」と検索いただき、確認をお願いします。
無料低額診療事業
一部の医療機関では、経済的な理由で医療費の支払いが困難な方に対して、無料または低額で診療を行う「無料低額診療事業」を実施しています。
利用には収入等の要件があり、医療機関によって基準が異なります。
また、すべての医療機関で実施しているわけではないため、実施医療機関については、「難病医療費助成制度 一覧 住んでいる都道府県名」と検索いただくか、お住まいの地域の福祉事務所等にお問い合わせください。
傷病手当金
会社員として勤務しながら、副業、兼業で芸術活動を行っている方の場合、病気やケガで会社を休んだ際に、傷病手当金を受給できる可能性があります。給与の約3分の2が、最長1年6カ月支給されます。
ただし、この制度は健康保険(社会保険)に加入している方が対象で、国民健康保険の加入者は利用できません。仕事や通勤が原因となった病気やケガの場合は、傷病手当金ではなく、労災保険の対象となります(フリーランスの方は、第2回[1]でご紹介した労災保険の特別加入制度の活用をご検討ください)。
これらの制度を利用することで、医療費の負担を軽減することができるかもしれません。
それでもなお医療費の負担が難しい場合は、生活保護の利用を検討ください。
生活保護には医療扶助という種類の支援があり、医療費の自己負担が0円になります。生活を立て直すためにいっときの間、生活保護制度を利用することも頭の片隅にぜひ置いておいてください。
次回は、子育てや介護等の支援制度についてご紹介する予定です。