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第2回:芸術家のみなさんに知っていただきたい社会保障制度①

NPO法人Social Change Agency代表理事、ポスト申請主義を考える会代表、社会福祉士
横山 北斗

はじめに

第1回は、芸団協による「芸術家のための互助の仕組み」についての中間提言を踏まえ、その意義と可能性についてお伝えしました。また、労災保険の特別加入制度を例に、社会保障制度が芸術家の皆さんの生活にどのような影響を与えるかを具体的に説明しました。

今回のコラムでは、社会保障制度のうち経済的支援の一部を取り上げてご紹介します。

具体的な制度の内容に触れる前にまず、多くの芸術家の方々が該当する「個人事業主」としての立場と、一般的な「被用者(会社員)」との違いを見てみましょう。

  • 制度
  • 個人事業主
  • 被用者(会社員)
  • 年金
  • 国民年金のみ
  • 国民年金 +厚生年金
  • 医療保険
  • 国民健康保険
  • 健康保険
  • 労災保険
  • 任意で特別加入できるが対象に制限あり*
  • 強制加入
  • 雇用保険
  • 加入不可
  • 強制加入

個人事業主は、被用者に比べて利用できる制度が限られています。そのため、既存の制度について知り、不足する部分を自主的にカバーするだけでなく、「芸術家のための互助の仕組み」が重要になってくることは、第1回のコラムでお伝えした通りです。

それでは、具体的な制度の紹介に入っていきましょう。

労災保険の特別加入制度:仕事上の怪我や病気のリスクに備える

第1回[1]でもお伝えしたとおり、芸術家の皆さんの仕事上の怪我や病気のリスクに備えるために検討いただきたいのは、労災保険の特別加入制度です。ご自分が特別加入の対象かどうかは厚生労働省ウェブサイト[2]をご覧ください。

例えば、公演準備中に高所から落下して6ヶ月入院した場合、医療費は全額補償され、さらに約50〜360万円の休業補償金を受けられることを示しました。舞台設営中の事故や、長時間の立ち仕事による腰痛などにも適用されます。詳細は第1回コラムをご覧ください。

求職者支援制度:給付金と職業訓練を受けられる

さまざまな理由で芸術家の仕事から離れ、別の仕事やキャリアを目指す方もいるかもしれません。個人事業主は雇用保険に加入できず失業手当を受けられませんが、そんなとき、心強い味方となるのが求職者支援制度です。

いくつかの条件がありますが、直近の月収が8万円以下であれば、無料の職業訓練に加えて給付金も受けられる可能性があります。8万円を超える場合でも、無料の職業訓練を受講できるチャンスがあります。

最終的な利用の可否は総合的な観点からハローワークが判断しますが、アルバイトで生計を立て副業的に芸術家の仕事をしている駆け出しの方も条件を満たせば活用できる可能性があります。詳細は、求職者支援制度のご案内[3]をご覧ください。

年金制度:人生の様々な場面を経済的に支える

年金制度は、一般的に老後の生活保障として知られていますが、実はそれだけではありません。例えば、病気やケガで働けなくなった場合に受給できる障害年金や、加入者が亡くなった際にその家族を支える遺族年金も含まれます。

この制度のポイントは以下です。

老齢年金:65歳からの生活を支える基本的な年金

例:70歳のベテラン俳優Aさんの場合

  • 40年間保険料を納付
  • 満額の老齢基礎年金:月額約68,000円

障害年金:万が一病気やケガで働けなくなった際のセーフティネット

例:45歳のダンサーBさんの場合

  • リハーサル中の事故で重度の腰椎損傷
  • 障害基礎年金1級:月額約85,000円

遺族年金:残された家族を守るための年金

例:50歳で亡くなった音楽家Cさんの場合

  • 遺族基礎年金:月額約68,000円
  • 第1子・第2子がいる場合の加算:上記に加え、子ども1人につき月額約19,500円

なお、基礎年金に加えて、国民年金基金に加入することで、年金額を増やすことができます。詳細については、国民年金基金ウェブサイト[4]をご覧ください。

このように年金制度は、老後の生活保障だけでなく、障害を負った際の支援や、不幸にして亡くなった場合の家族保護など、人生のさまざまな局面でセーフティネットの役割を果たします。

小規模企業共済制度:芸術家の"退職金"

最後に紹介するのは「小規模企業共済制度」です。
これは芸術家の皆さんのための退職金制度のようなものです。

この制度のポイントは以下です。

  • 収入に応じて掛金を柔軟に変更することが可能(月1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定が可能)
  • 全額を小規模企業共済等掛金控除として、課税対象となる所得から控除できるため節税になる
  • 退職・廃業時に受け取り可能。満期や満額はありません。共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」から選択可能

例えば、大きな公演が決まって収入が増えた月は掛金を増やし、オフシーズンは最低額に設定するなど、収入の波に合わせた運用ができます。中小企業基盤整備機構ウェブサイト[5]では、将来受け取れる金額や節税効果についてのシミュレーションを行うことができますので、ぜひご覧になってみてください。

今回はいくつかの経済支援制度について紹介をしました。
次回は、経済支援制度の中でも、特に経済的に困窮した場合に利用できる制度について紹介をさせていただきます。