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第3回:芸術家のみなさんに知っていただきたい社会保障制度②

NPO法人Social Change Agency代表理事、ポスト申請主義を考える会代表、社会福祉士
横山 北斗

はじめに

第2回のコラムでは、労災保険の特別加入制度、求職者支援制度、年金制度、小規模企業共済など、芸術家の皆さんが活用できる経済的支援の仕組みについてご紹介しました。
今回は、経済的に困った場合に利用できる3つの制度に焦点を当て紹介します。

まず、個人事業主と被用者(会社員)との違いを再確認し、その上で生活福祉資金の貸付、住居確保給付金、生活保護といった支援制度について詳しく見ていきましょう。

個人事業主と被用者(会社員)との違い

多くの芸術家の方々は個人事業主として活動されていますが、被用者(会社員)と比べて利用できる社会保障制度に違いがあります。主な違いは以下の通りです。

  • 年金:個人事業主は国民年金のみ、被用者は国民年金に加えて厚生年金にも加入
  • 医療保険:個人事業主は国民健康保険、被用者は健康保険
  • 労災保険:個人事業主は任意で特別加入(対象に制限あり)、被用者は強制加入
  • 雇用保険:個人事業主は加入不可、被用者は強制加入

このように、個人事業主は被用者に比べて利用できる制度が限られています。そのため、既存の制度を十分に理解し、活用することが重要です。

生活費の支援制度

以下3つの制度を紹介します。

(1)生活福祉資金の貸付

生活福祉資金貸付制度とは、低所得者、障害者、高齢者の生活を経済的に支援することを目的とした制度です。一時的な収入減少や、予期せぬ出費により、生活に困窮した場合にお金を借りることができます。

主な貸付種類と金額例

  • 貸付種類
  • 概要
  • 内訳
  • 金額例
  • 総合支援資金
  • 失業等により生活に困難を抱えている方に対する貸付
    • 生活支援費
    • 単身世帯:月15万円以内
      2人以上世帯:月20万円以内
      (原則3カ月)
    • 住宅入居費
    • 40万円以内
    • 一時生活再建費
    • 60万円以内
  • 福祉資金
  • 日常生活を送る上で、又は自立生活に資するために一時的に必要であると見込まれる費用の貸付
    • 福祉費
    • 580万円以内
      ※資金の用途に応じて上限目 安額を設定
    • 緊急小口資金
    • 10万円以内
  • 教育支援資金
  • 低所得世帯の子どもが高等学校、大学等に修学するために必要な経費の貸付
    • 就学支度費
    • 50万円以内
    • 教育支援費
    • 高校:月3.5万円以内
      大学:月6.5万円以内

この他にも「不動産担保型生活資金」などがあります。貸付の条件などの詳細は、厚労省ホームページ[1]を参照してください。

貸付利子は、連帯保証人を立てる場合は無利子、立てない場合は年1.5%です。返済期間は資金種類によって異なります。申請は市区町村の社会福祉協議会で受け付けています。

(2)住居確保給付金

住居確保給付金は、離職や廃業、やむを得ない休業等により経済的に困窮し、住居を失うおそれのある方に対して、家賃相当額を一定期間支給する制度です。

主な支給要件

  • 離職・廃業後2年以内、または休業等により収入が減少し、離職等と同程度の状況にある
  • 収入要件、資産要件を満たしている(例:東京都の場合、単身世帯で月収約13.8万円以下、預貯金50.4万円以下)
  • ハローワークの登録、自営業の場合は経営相談先への相談を行うこと等

支給額は地域や世帯人数によって異なります。例えば、東京都23区の場合は以下の通りです。

  • 単身世帯:53,700円
  • 2人世帯:64,000円
  • 3~5人世帯:69,800円

支給期間は原則3カ月(最長9カ月まで延長可能)です。申請は各自治体の自立相談支援機関で受け付けています。

(3)生活保護

生活保護は、生活に困窮する方に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を助長することを目的とした制度です。国が定めている計算式によって世帯の基準額を計算し、月の世帯収入がそれに満たない場合に不足分が支給されます。

支給額の例

(2024年4月現在、東京都区部の場合)

  • 生活扶助(1級地-1)
    ・単身世帯(40歳):月額約8万円
    ・2人世帯(33歳、3歳):月額約13万円
  • 住宅扶助(1級地)
    ・単身世帯:月額53,700円以内
    ・2人世帯:月額64,000円以内

上記に加えて、医療費は医療扶助として、介護保険サービスの費用は介護扶助として、全額支給されます。また、子どもがいる世帯では、教育扶助として学用品費なども支給されます。申請は、各自治体の福祉事務所で受け付けています。

支給額は年齢や世帯の人数、地域によって金額が異なります。ご自分の世帯の基準額については、「最低生活費の算出方法」で検索をしてください。

おわりに

今回ご紹介した3つの制度は、経済的に困難な状況に陥った際の重要なセーフティネットとなります。具体的な金額を示しましたが、住んでいる地域や個人の状況によって変わるため、詳細は住んでいる自治体の各窓口に問い合わせてください。

また、これらの制度を利用する前に、第2回[2]でご紹介した労災保険の特別加入や小規模企業共済制度など、事前に準備できる制度の活用も検討してください。

次回は、医療費・療養中の支援制度について詳しく紹介する予定です。