第6回 芸術家のみなさんに知っていただきたい社会保障制度⑤
NPO法人Social Change Agency代表理事、ポスト申請主義を考える会代表、社会福祉士
横山 北斗
はじめに
第5回のコラムでは、子育てや介護の支援制度についてご紹介しました。芸術家の方々は、創作活動におけるプレッシャーや不安定な収入、孤独な活動環境など、様々なストレス要因にさらされることが多いのではないでしょうか。また、夜間や不規則な活動時間も心身の健康に影響を与えることがあります。
今回は、メンタルヘルスの不調を抱えた際に利用できる支援制度について解説します。
メンタルヘルスの相談窓口
各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センター、各地域の保健所では、メンタルヘルスに関する相談を無料で受けることができます。
また、全国共通の「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)も設置されています。精神保健福祉士や保健師などの専門家に、電話や来所、オンライン(地域により異なる)で相談することができます。
例えば以下のような場合には、相談窓口の利用を検討されてもよいかも知れません。
- プレッシャーや締め切りなどのストレスで眠れない日が続いている
- 大きな公演やイベントを控えて強い不安や緊張を感じ、日常生活に支障が出ている
- 収入の不安定さから将来への不安が強く、気分が落ち込む日が続いている
本人だけでなく、家族からの相談も受け付けており、必要に応じて適切な支援機関を紹介してもらえます。相談内容の秘密は守られますので、深刻な状態になる前に、早めに相談することをお勧めします。
自立支援医療(精神通院医療)
精神疾患で通院による治療が必要な場合、自立支援医療(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担を原則1割に軽減することができます。通院医療費と薬代が対象となりますが、入院費用は対象外です。
申請には医師の診断書が必要で、市区町村の障害福祉担当窓口で手続きを行います。所得に応じて自己負担額の上限も設定されています。
制度の詳細や申請方法については、お住まいの市区町村の障害福祉課に相談してください。
傷病手当金と労災保険
会社員として勤務しながら芸術活動をしている方が、メンタルヘルスの不調により会社を休んだ場合、健康保険から傷病手当金を受給できます。休業前の標準報酬日額の3分の2相当額が最長1年6カ月支給されます。
ただし、国民健康保険の加入者は対象外となります。
傷病手当金については、加入している健康保険の窓口に相談してください。
また、仕事が原因でメンタルヘルスの不調をきたした場合は、労災保険の対象となる可能性があります。フリーランスの方も、労災保険の特別加入制度に加入していれば補償の対象となります。
業務との因果関係の立証が必要ですが、医療費の全額補償に加え、休業補償も受けられます。
労災保険については、最寄りの労働基準監督署または都道府県労働局に相談してください。ご自分が特別加入の対象かどうかは、厚生労働省ウェブサイト[1][2]をご覧ください。
障害福祉サービス
精神障害により日常生活や社会生活に支援が必要な場合、精神障害者保健福祉手帳を取得することで、様々な障害福祉サービスを利用することができます。就労支援や生活訓練、居住支援などのサービスがあり、原則として費用の1割が自己負担となります。
例えば、一般企業への就職に向けた訓練を提供する就労移行支援や、働く場を提供しながら知識・能力の向上を支援する就労継続支援があります。これらのサービスの利用については、まずお住まいの市区町村の障害福祉課や基幹相談支援センターに相談してください。専門の相談支援員が、利用可能なサービスの説明や利用計画の作成を支援してくれます。
障害年金
精神疾患により長期的に仕事や日常生活に支障がある場合、障害年金を受給できる可能性があります。障害の程度に応じて月額約68,000円から85,000円の年金を受給できることがあります。
実際の受給には、加入要件や医師の診断書など、いくつかの条件を満たす必要があります。詳しくは日本年金機構[3]のホームページをご覧ください。
障害年金の申請手続きや要件については、通院している病院のソーシャルワーカーや、市区町村の国民年金窓口や年金事務所で相談することができます。年金事務所では障害年金の請求手続きに関する専門の相談窓口も設けています。
有償になりますが、手続きを含めて社会保険労務士に依頼することも可能です。
おわりに
メンタルヘルスの不調を感じた場合、早めに相談することが重要です。
特に芸術家の方々は、個人で活動されている方も多く、周囲に相談しにくい環境にあるかもしれません。しかし、一人で抱え込まず、これらの支援制度を積極的に活用することをお勧めします。
これらの制度は、誰もが利用できる権利として整備されています。心の健康を保ちながら、芸術活動を継続していくためのツールとして、ぜひ活用を検討してください。
これまで様々な社会保障制度についてご紹介してきましたが、次回が最終回となります。
コラム連載の総まとめとして、全国、どの地域でも利用できる代表的な相談窓口を改めてご紹介します。どの制度を利用すればよいかわからない時の「最初の相談先」として、ぜひご活用ください。