【調査研究】韓国芸術家福祉財団を迎えてセミナーを開催(レポート)
芸団協
2024年11月25日
2024年11月14日に、芸団協正・賛助会員団体とその関係者、文化芸術推進フォーラム構成団体、及びマスコミを対象として、セミナー「韓国の文化芸術政策における芸術家福祉の意味と役割~チョン・チョル韓国芸術家福祉財団経営本部長を迎えて」を開催しました。
このセミナーは、社会保障研究の一環として行ったもので、芸団協が提言している「芸術家のための互助の仕組み」の実現に向けて、先進的な取組をしている韓国の事例を学ぶ目的で企画したものです。
ご登壇いただいたチョン・チョル韓国芸術家福祉財団経営本部長は、ミュージカル、演劇などの公演企画や制作に携わった後、文化政策専門家として 韓国文化芸術委員会で要職を歴任。2017年より現職に着任し、財団運営の総括及び政策開発等を担っています。
韓国では、1972年に「文化芸術振興法」が制定され、日本と同様に、芸術家ではなく芸術作品の支援に焦点をあてた施策が講じられてきました。
2000年初頭、芸術家の不幸が相次いだことで、その劣悪な待遇に世間が注目するようになり、2011年の「芸術家福祉法」制定に至りました。
翌2012年には、芸術家の福祉施策を実施する専門機関として「韓国芸術家福祉財団」が、文化体育観光部(日本の文化庁に該当)の下に創設されました。
韓国でも日本と同様に、フリーランスとして文化芸術活動を行う芸術家が多く、健康保険や国民年金の保険料は、全額自己負担である上に、労災保険や雇用保険には加入することができませんでした。
芸術家福祉法が制定された翌年の2012年に、芸術家は保険料を全額負担すれば労災保険に任意加入できるようになり、2020年には芸術家雇用保険が実現しました。
韓国芸術家福祉財団では、一定の要件を満たした芸術家に対して、国民年金や労災保険の保険料支援を行っています。
韓国芸術家福祉財団は、こうした社会保障の充実に限らず、芸術活動準備金の支援、生活安定資金の融資、安価な賃貸住宅の運営、社会的課題解決のための企業や地方自治体への芸術家派遣支援、芸術家オンブズマン制度など、芸術家の福祉向上のため、幅広い施策を実施しています。
2024年度予算額は、106516百万ウォン(約117億円)にも上りますが、その大半は、文化体育観光部の一般予算と、同部が管理・運営する基金で賄われています。
チョン経営本部長の講演後は、芸団協「2022年度 芸術家の社会保障等に関する研究会」委員を務め、今回のセミナー実現にもご尽力くださった閔鎭京(ミン・ジンキョン)北海道教育大学岩見校准教授にも加わっていただき、質疑応答の時間を設けました。
参加者からは活発な質問が飛び交い、質疑応答は約1時間にも及び、皆さんの関心の高さがうかがえました。
最後に閔先生より、
「韓国で芸術家福祉施策がここまで充実してきたのは、韓国芸術家福祉財団という専門機関があったからこそ。日本でも、芸術家の福祉に対する関心は高いものの、誰が推進していくのか、誰が具現化していくのかという観点が抜け落ちている。その点で、韓国芸術家福祉財団が一つのモデルになればよいと思う。財団のボトムアップによる絶え間ない努力の結果、2022年に文化体育観光部内に、芸術家支援チームが設置されるに至った。今後は、同チームと財団との連携に注目していきたい」
との発言をもって、約2時間のセミナーが終了しました。
韓国の先進的な取組を知り、日本の現状と今後の進むべき方向に思いをはせる、非常に貴重な機会となりました。
芸団協セミナー「韓国の文化芸術政策における芸術家福祉の意味と役割~チョン・チョル韓国芸術家福祉財団経営本部長を迎えて」
【通訳】宋 元燮(ソン・ウォンセプ)(conSept合同会社 代表)
〈参考資料〉
・韓国の芸術政策における芸術家福祉の意味と役割(チョン・チョル韓国芸術家福祉財団経営本部長 発表資料)