インタビュー「あの先生の “たからもの”」黒田鈴尊先生(尺八)
先生たちの “キッズ時代” や “たからもの” にまつわるエピソードを紹介するシリーズ企画。
お稽古場ではなかなか見えない先生方の「素顔」を、少しだけお伝えしていきます。
今回は、三曲/尺八コースから 黒田 鈴尊(くろだ・れいそん)先生です。
アーティスティックな雰囲気をまとう黒田先生に、ご自身の “たからもの” について文章をお寄せいただきました。
人生と脳味噌がひっくり返った二十歳の夏
― お稽古をはじめた時期、きっかけを教えてください。
二十歳の夏休みに、CDで武満徹作曲「ノヴェンバー・ステップス」を聴いて、それまでの人生と脳味噌(のうみそ)がひっくり返る程の感動を受け、これを吹きたい! と一念発起したことが尺八を始めたきっかけです。はじめのころはなかなか音も出せず、音が出るようになってからも、ひたすらに息を吹き込むことを繰り返すので、音楽というより武道のようだと感じていましたが、兎に角、夢中でした。
幼い頃はピアニストや指揮者になりたいと思っておりました。同じ楽譜からこんなに十人十色の音楽像が表現されることに興味が尽きなかったのですが、これは尺八本曲(尺八のために作られた曲)の世界の自由度とも通底していて、音楽の無限の可能性に、ずっと夢中でおります。
音楽は言語を超える。尺八を通して人々が心を通わせる喜び
― 先生の “たからもの”を教えてください。
私の “たからもの” は、尺八を通して、“音、時間、空間”を聴いてくださる方々と共有する経験そのもの、です。
たとえば、2019年、令和元年度の文化庁文化交流使として、中国、イタリア、ブラジル、フランス、ドイツ、ポルトガルを訪問させて頂きました。6か国16都市(※)での公演や講義を日本語が通じない環境で実行することに不安にならなかったのは、自分の義務教育終了程度の英語(ブロークンジャパニーズイングリッシュ)力・・・・・・では勿論なくて、尺八の音で、異文化コミュニケーションができることが、それまでの海外公演での経験より分かっていたからでした。
非言語コミュニケーションは、時に言語コミュニケーションを遥かに凌ぎます。写真のブラジル・クリチバのアリーナでの独演会では、日系のお客様が多かったこともありますが、日本の歌謡曲を奏でた時の会場のどよめきと一体感が忘れられない思い出となっています。尺八の独奏で奏でられるのは単旋律に限られ、歌詞の力も借りられませんが、日本の文化に根差した音そのものの可能性を再発見する契機になりました。
※訪問都市…中国(北京、蘇州、青島)、イタリア(ミラノ)、ブラジル(ロンドリーナ、アプカラナ、クリチバ、サンパウロ)、フランス(パリ)、ドイツ(シュトゥットガルト、デトモルト、レムゴー、ベルリン、ケルン、ミュンヘン)、ポルトガル(リスボン)
photo: ブラジル・クリチバのアリーナでの独演会
「自分の音」を一生かけて追求する醍醐味
― お稽古をがんばっている子供たちに向けて、メッセージをお願いします。
私は二十歳になるまで尺八の “し” の字もしらなかったので、早くに尺八と出会えた皆さんがとっても羨ましいです。音が出るまでの最初の一歩が、他の楽器より少し難しい面もある楽器ではありますが、音が簡単に出るようになってからも、「自分の音」を、それこそ一生追求していける楽器でもあります。持ち運びも物凄く簡単なので、日本全国のみならず海外へも簡単に持って行けて、自国文化紹介と異文化交流が叶うことは、とても大きな魅力だと思います。
5分でも10分でもいいので、毎日吹くことが何よりオススメの練習方法です。
リラックスしたまま、いとも簡単に音を出せる瞬間、楽器と身体が共振して空気を振るわせる瞬間が、必ずやってきます。”諦めないで、続けることだけがコツ”なのは、全てのことにおける共通項のようなので、尺八を通して、呼吸の鍛錬(たんれん)と健康増進も叶えながら、コツコツ自分のペースで続けてみてください。
“こんな音が出せたらいいな”という音、曲に出会うこと、そしてイメージでそれを目指すこと。こうしたことがとっても大事なことのように感じております。
皆さんの尺八ライフを心から応援しています。[寄稿]
photo: 無観客配信による「黒田鈴尊独演会~2020年の尺八は今夜~」での1コマ
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