インタビュー「あの先生の “たからもの”」杵屋栄日陽先生(三味線)
先生たちの “キッズ時代” や “たからもの” にまつわるエピソードを紹介するシリーズ企画。
お稽古場ではなかなか見えない先生方の「素顔」を、少しだけお伝えしていきます。
今回は、長唄/三味線コースの 杵屋 栄日陽(きねや・えいかよう)先生です。
愛嬌たっぷりの笑顔が印象的な栄日陽先生に、ご自身の “たからもの” について文章をお寄せいただきました。
ひとりでは成り立たない音楽。先輩方や仲間たちに囲まれて
― お稽古をはじめた時期、きっかけを教えてください。
子供の頃は本や音楽が好きで、図書館に入り浸りの毎日でした。図書館で借りられるビリー・ジョエルのカセットテープも繰り返し聴いておりました。ちなみに、私は“ビリー・ジョエル世代”よりは年下です(笑)。図書館のカセットテープでは音楽のトレンドまでは追えませんでしたが、お気に入りでした。母がオペラやミュージカルなどに一生懸命連れていってくれた影響で、高校生のときは演劇部。当時、『ガラスの仮面』という漫画が流行っており、完全にその影響を受けていました。もちろん、あのような演技はできません(笑)。
進学すると、学校の仲の良い先輩の紹介で長唄研究会に入部し、長唄を始めることになりました。18歳の時です。三味線という楽器の難しさに何度も心が折れそうになりましたが、先生のご指導もあり、先輩方や仲間たちと一緒にお稽古をして、なんとか弾けるようになりました。そもそも長唄は仲間が居ないと演奏できない音楽です。そこに恵まれたというのは大変に有り難いことでした。当時は舞台全般が好きで、舞台関係のことを学ぶ学校だったこともあり、演劇や歌舞伎、ライブやコンサートなどは良く観に行きました。学割ってすばらしいです! みなさんも学生の間に、ぜひ、いろいろなものを観て吸収してください!
演奏者だけではない、伝統芸能と向き合う姿勢を垣間見た“撥”
― 先生の “たからもの”を教えてください。
三味線の撥(バチ)です。まだ若い頃、師匠の紹介で通っていた三味線屋さんから購入しました。それまでは先輩から頂いたものを使っていたので、初めて自分で買った撥でもあります。その三味線屋さんは、私がまだ右も左も分からない頃から面倒をみてくださり、良い意味で“下町のおじちゃん”風。ダメなことはダメとはっきり言ってくださる貴重な方でした。それまで使っていた比較的薄めにできている撥は勝手にしなってくれるので弾くのにとても楽なのですが、ぺちゃぺちゃとした“撥が薄い音”しか出ません。「まだ若いんだからこういう撥の方がいいよ。若いうちは楽をして音を出しちゃダメだよ」と、それまでとは違う使用感の一丁を見立ててくれました。同じようなものを用意することもできたと思いますが、そうはせず、ご自身が私に合うと思う撥を用意してくださったところに、伝統芸能を守り、伝えていく姿勢を垣間見たような気がいたします。残念ながら他界されてしまい、現在は息子さんが跡を継いでおられますが、変わらずお世話になっております。
photo: 自分で初めて買った撥(バチ)
舞台での自分を思い描いてみる。不安を潰すためには稽古あるのみ
― お稽古をがんばっている子供たちに向けて、メッセージをお願いします。
今年度はコロナの影響で心配な毎日かと思いますが、そんな中参加してくれて本当に嬉しいです。みなさんの「三味線を弾きたい!」というお気持ちから、毎回、力をもらっております。
三味線という楽器が持つ力は非常に大きく、場になじむことも切り裂くことも、場を新しく作ることもできます。そんな魅力に気付くことができたのは、お稽古を続けているからです。私も、つまずくことはよくあります。どうしても弾けないフレーズがあったり、お稽古に気持ちが向かなかったり……。そんな時は自分が舞台でどう在りたいかを思い描いてみてください。堂々と立派に弾いているほうが良いですよね。不思議なもので、不安だったり自信がなかったりすると見た目や音にその気持ちが現れます。私はその不安を一つひとつ潰すためにお稽古を重ねています。
100%の力を出し切ることも大変に難しいことです。が、本番が終わった後、みんなで「ベストを尽くせたよ」と笑顔で言えるよう一緒に頑張りましょう![寄稿]
photo: (上)長唄協会九州演奏会「浅妻船」(平成23年)、栄日陽先生は三味線中央から2番目
(下)最近の舞台より
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