2017.12.01
「同空間で観劇を楽しむために」障がい者を特別視しない寄り添うサポートとはアーツマネジメント講座2017 講座12(10/17)レポート》
10月17日に、沖縄県浦添市の「国立劇場おきなわ」で開催されたアーツマネジメント講座2017。今回のテーマは、「視覚障がい、聴覚障がいを持つお客様を劇場に迎えるために」です。
講師には、NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(以後、TA-net)の理事長の廣川麻子さん、演劇結社ばっかりばっかりの美月めぐみさんをお迎えしました。廣川さんは聴覚障がいを、美月さんは視覚障がいを持ちながら、障がい者がもっと文化芸術が楽しめるよう普及啓発活動に取り組んでいます。
今回の講座では、文化芸術から障がいを持つ方を遠ざけるバリアとは何か、ロールプレイングを交えながら一緒に考えました。
劇場に迎える第一歩は、エンターテイメントを共有する仲間意識
「想像してみてください。今日、ほとんどのみなさまは、会場となっている国立劇場おきなわまでスムーズに来られたと思います。しかし、目が見えない、耳が聞こえない人たちが劇場に来ることは容易ではありません。障がい者にはどんなバリアがあり、何を壁に感じているのか、講座を通して一緒に考えてみましょう」
そう廣川さんが呼びかけた会場には、さまざまな人たちの姿が見受けられました。聴覚・視覚に障がいを持ちながら「舞台観劇や音楽演奏に関わりたい」という人。障がいを持っている人たちにも文化芸術を楽しいんでほしいという人。それらをサポートしたい人や劇場の関係者など。
そこではじめに廣川さんと美月さんから投げかけられたのは、劇場内外に存在する「障がい者を遠ざける8つの壁」についてです。
美月さんはこの見えない・聞こえない人を阻む「8つの壁」について、現状として「エンターテイメントから遠ざけられることになって、当事者としてはつまらない」と感じるといいます。しかし、だからといって、「障がい者に舞台を楽しませてあげる努力をしなくてはいけない」と劇場スタッフには捉えてほしくないと、こう続けました。
「同じエンターテイメントを楽しめる仲間を増やす工夫として捉えてほしいです」
イベント認知からアンケートまでーー「8つの壁」の課題と解決策
ここでは、会場で話された「8つの壁」とそれを解消する工夫について簡潔にまとめたいと思います。主に聴覚障がいに関する内容は廣川さん、視覚障がいに関する内容は美月さんの発言を元にしています。
1、告知(チラシ・公演情報)
▼聴覚障がい者の場合
(課題)
チラシに連絡先として電話番号のみ記載だと、問い合わせができない。
(解消するための工夫)
電話番号以外に、FAXやメールアドレスをチラシに掲載する。インターネットを使える環境にいれば、日本財団電話リレーサービス(事前登録制)を活用できる。オペレーターを介しての会話になるので、もしかかってきたら、タイムラグがあることを踏まえた対応を。
▼視覚障がい者の場合
(課題)
チラシや新聞などの活字情報は、そもそも読めない。また、インターネット上に公演情報を画像でアップされても、音声読み上げソフトが使えず情報を得られない。
(解決策)
地域ごとにある視覚障がい者協会の点字図書館や社会福祉法人 日本盲人会連合(日盲連)、全日本視覚障害協議会(全視協)といった障がいを持つ方が見つけやすいインターネットの媒体に情報を載せる。
タイムラインの内容を読み上げ機能があるSNS(Facebook、Twitter、LINE)を使って、情報発信を行う。
2、予約
▼視覚障がい者の場合
(課題)
インターネット予約の手続きの最中に、画像を用いた文字認証があった場合、音声読み上げソフトが使えず予約ができない。障がい者サービスの専用電話があっても、Webサイトから見つけることが難しい。一般回線に電話した際に、オペレーターがサービスを把握していないことが多い。
(解決策)
障がい者サービスの専用電話を一般回線の近くに分かりやすく明記する。もしくは、障がい者サービスと一般回線を分けずに、オペレーターが障がい者に配慮できるように体制を整える。
3、劇場に行くまで
▼視覚障がい者の場合
(課題)
ガイドヘルパーと一緒に観劇するとき、2人分のチケット代が必要となる。また、単独で劇場に向かう際に、最寄りの駅やバス、タクシーから降りたところから、入口の位置や方向、どこに受付があるのか探せない。
(解決策)
ガイドヘルパーの料金を無料もしくは割引料金を設定する。事前に、障がいを持つ方と連絡を取り合えるよう、互いの携帯電話を確認する。
4、受付
▼聴覚障がい者の場合
(課題)
事前に購入したチケットを自宅に忘れた、もしくは会場で受け取りを行う際に、会場スタッフとコミュニケーションが取りにくい。
(解決策)
受付に、紙とペンやホワイトボード、電子メモパッド(ブギーボード)などを置き、いつでも筆談できるようにする。さらに、受付に「筆談します」札を置くことで、声をかけやすくする。また、定型文はあらかじめ印刷しておけば、指差しで対応できる。この方法はカフェなどでも応用できる。
▼視覚障がい者の場合
(課題)
受付からは劇場内すべての行動が、ガイドヘルパーもしくは会場スタッフのサポートがないと困難になる。
(解決策)
障がいを持つ方をサポートする専属スタッフを配置する。
5、劇場内(カフェ、物販、トイレ)
▼視覚障がい者の場合
(課題)
カフェやトイレの場所を確認したとき、「あちら」「それ」といった指示語や指差しで伝えられても分からない。
(解決策)
具体的な名称で説明を行い、理解していない様子を見せたら「お連れしましょうか」と一声かける。
6、客席案内
▼視覚障がい者の場合
(課題)
指定席の場合、席の番号が確認できない。自由席の場合、どこに空席があるのかわからないため、別の来場者の膝に座ってしまうこともある。
(解決策)
指定席・自由席ともに、会場スタッフが受付から客席まで手引き誘導を行う。自由席の場合、観劇では、臨場感を感じられる前列に、また音楽コンサートではバランスよく聞ける中央の席を案内する。
7、上演中
▼聴覚障がい者の場合
(課題)
開演前のアナウンスや、舞台の内容がわからない。
(解決策)
事前に、アナウンスする内容を印刷して紙で渡す。上演内容に字幕を付けたり、舞台の横にスクリーンを設置して字幕を投影する。
▼視覚障がい者の場合
(課題)
舞台上にある物の配置や位置関係、広さがわからないため、公演内容を把握するのが難しい。
(解決策)
公演前に、舞台説明の時間を設けて舞台セットの配置を伝えたり、障がい者向けの音声ガイドを用意する。劇場内に、舞台模型を設けて、舞台上にある物の配置を伝える。
8、上演後
▼視覚障がい者の場合
(課題)
アンケートなどの回答・回収が難しいことが多い。
(解決策)
アンケートについて、会場スタッフが代筆を申し出たり、後日メールや電話にて確認する。
障がいを持つお客様を劇場に迎える際の「8つの壁」をすべて取り除くことは難しい課題にも見えますが、少しの工夫で解決できるものもあります。身近なことでも心がけ次第で、壁の数を少しずつ減らしていくことはできるのです。
視聴覚で補い、観劇を深める「テクノロジー」と「配慮」
会場内では、耳が聞こえない・目が見えない人にも講座を「伝える工夫」がありました。
例えば、耳が聞こえない人のためには、聴覚障害者向け会話アプリ「UDトーク」を使いました。このアプリでは、話した言葉をそのまま字幕に表示することができるので、耳が聞こえなくてもリアルタイムで講座の内容を伝えることができます。誤字については、このアプリを使って支援活動をしている沖縄県中途失聴・難聴者協会の渡久地準さんが、随時修正しながらサポートしました。
実際の観劇の現場などでは、どういった「伝える工夫」がされているのでしょうか。
美月さんによると、視覚障がい者向けには、音声ガイドを活用して、舞台シーンを解説する方法があるといいます。
「同じ客席内で行うと他の観覧者に迷惑をかけるため、事前にイヤフォンをお配りして、音声を聞いてもらいます。ナレーターが別室にて、FM送信機を使いながら、舞台の登場人物や言葉にならないシーンの解説するんです」
美月さんが所属する演劇結社ばっかりばっかりでは、障がい者でもわかる舞台づくりとして、「無言のシーンを作らない」「足跡をバタバタ立てる」「言葉だけに頼らない動作を交えた演技をする」といった工夫もしているといいます。
「障がいを持っている人たちには丁寧に対応しなきゃ」は思い込み? ロールプレイから共に学び、共に助け合えることを知る
講座の中盤では、障がいを持つお客様を劇場に迎えるロールプレイングが行われました。美月さんは「研修として、アイマスクを付けて視覚障がい体験をすることもできますが、障がいを持つ人たちが劇場内外でどんなことに困っているのか耳を傾けて、実際に誘導してみるのもいい経験になる」といいます。
ロールプレイングでは受講者が劇場スタッフ役となり、「受付で予約済みのチケットを受け取る」「指定席から自由席へのチケット種別の変更を伝える」「会場内の移動をサポートする」といったシーンを体験しました。
編集記 「福祉と文化芸術」の観点から、共生のヒントを見つける
講座の終盤では、沖縄に住む障がいを持つ人から、沖縄の障がい者の現状や文化芸術との関わり方について思いを語ってもらいました。
沖縄では福祉分野のみに頼らず、文化芸術の面でも障がい者支援が行われています。例えば、社会自立を目的に、障がいを持つ方が製造食品のガラス瓶や食器に関するデザインを行う「琉Q」の取り組みが挙げられます。
一方で、美月さんが講座で伝えた「視覚障がい者のうち、1割程度しか点字ができない」といった障がい者の現状を理解することも大切です。これから、沖縄の社会で共生していくために、「福祉」の観点で切り分けるのではなく、同じ土俵に立てる仕組みを、一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。
(取材・撮影、文: 水澤陽介)