2017.09.08
「観る」から「体験」へ 子どもの可能性を引き出す、地域と芸術文化の在り方《アーツマネジメント講座2017 講座10(7/28)レポート》
「沖縄の芸術文化を次世代に伝えるために」
沖縄の文化資源を生かし、地域の活性化に寄与していくための可能性を探る「アーツマネジメント講座」。
前回は、創造都市の取り組みをテーマに「これからの社会のオペラ(職人)という働き方」「創造的な働き方と多様性がある地域の可能性」「芸術文化による社会課題の解決」などについて考えました。
今回のテーマは、「子どもたちの芸術体験―沖縄でのこれからの可能性を考える」。
日本児童・青少年演劇劇団協同組合(児演協)で人材育成を担当している太田あきらさんを講師にお招きして、沖縄県内の児童に音楽や演劇の芸術体験の機会を提供している「ビューローダンケ」の渡久地圭さんと「TEAM SPOT JUMBLE(以後、TSJ)」マネージャーの喜舎場梓さんを交えて、子どもたちのための取り組みについてお話ししてもらいました。
「観る」から「体験」へ 子どもたちの自己表現を育む演劇
「もともと、児童演劇は演者が学校に赴き、子どもたちのために作品を見せることで演技の腕前を磨いてきました。その過程で、子どもたちと一緒に劇団が育ち、プロフェッショナルになったのです」
日本の児童演劇は、劇場に演劇を観に行くヨーロッパの児童演劇とは異なり、「芸能を子どもに見せたい」という先生の思いから、学校を中心に広まっていきました。
しかし、学校での上演は体育館が中心で、会場も狭く、設備が足りません。そのため、さまざまな工夫がなされました。
演者や教育者側の思いが一致して行われていた児童演劇ですが、芝居を見せることに集中してしまい、子どもたちが表現する体験が抜けていたといいます。
「1990年代から、文化庁の助成金システムが変わり、子どもたちが芝居のワンシーンに参加するような学校公演に対して、補助金が出るようになりました。そして、先生が子どもたちに授業で教えるときに、演劇を切り口にしたアイスブレイクを行うなどする手法が注目されるようになりました」
授業のはじめに、子どもたちと一緒にジャンケンゲームをしながら、輪に入れない子がいないか、男女の仲がいいのか、全体を見ながら授業の進め方や内容を決めるというのも、演劇の手法を活用した一例です。
では、沖縄では現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。ビューローダンケの渡久地圭さんが、芸術体験とアウトリーチの視点からお話しします。
「音楽に対する、創造性を深めていくことに価値がある」子どもたちの閉塞感を打破する、クリニック型アウトリーチの可能性とは
アウトリーチとは、教育や福祉分野を通じて地域社会への奉仕活動、公共機関の現場出張サービスを行なうことです。渡久地さんはアウトリーチの一環として、特別支援学校や教育機関に訪問して、吹奏楽部の子どもたちにクリニック型のワークショップなどを行っています。
「クラシックは、演劇のように子どもたちと共通言語を持つことができません。ただ、子どもたちとアーティストが共演し、作品を聴きながら、イメージを連想することにつながっていくと思っています。
例えば、ワークショップとして、アーティストが弾いた曲に対して、どのようなイメージを持つのか、アーティストと子どもたちが一緒に当て合うゲームを行います。こうしたなかで、子どもたち自身が、音楽に対する創造性を深めていくことに価値があると思うんです」
では、アーティストを呼ぶための費用をどのようにまかなうのか。渡久地さんは、地元の県立本部高校で行なったクリニックでは、幼少期からお世話になっている病院の先生から支援していただいたといいます。
「学校によっては、予算の都合上、音楽鑑賞を辞めてしまうところもあります。ただ、アーティストと共演し、クリニックをしてもらうことで、音楽に対するモチベーションを高め、これからの夢や目標を持つことができるんです。
私の地元に限らず、子どもたちは閉塞感から将来の可能性を見出せずにいます。だからこそ、世界的に活躍するアーティストと一緒になって、一つの輪になることが何よりも大事なんです」
渡久地さんは「これからも継続したアウトリーチのため、資金調達の可能性を模索していきたい」と今後の展望についても語ってくれました。
続いて、TSJの喜舎場さんが、演技ワークショップと子どもたちへの教育の関連性についてお話しします。
「親と子」や「先生と生徒」とのコミュニケーションを考えるきっかけを与えるファシリテーターの役割
「私たちが行なう演劇ワークショップは、小学校や中学校の総合授業の一環として、体験型学習を提供しています。子どもたちに正解がない課題を与え、創造的に、また創作しながら解決するプロセスを通して、コミュニケーション能力の向上を図るようにしています」
演劇ワークショップは、その名の通りに演劇を指導するだけではなく、演劇の技能を使って自己表現を育んでもらうもの。そのため、プロの演劇の技術よりも、児童からアイデアを引き出す技能が求められるといいます。
「演劇の面白いところは、誰でも擬似体験できるところです。例えば、『友達にこんなことを言われて、悲しい気持ちになった』という擬似体験を演じることで、お互いにどうコミュニケーションすれば良かったのか、考えてもらうきっかけになります」
うらそえぐすく児童センターで行われたワークショップでは、児童センター館長より、「地域の大人と子どもが交流できる演劇ワークショップを実施して欲しい」と依頼があり、自治会長など地域で見守り活動をされている方と児童含め約50名に、全3回実施。大人と子どもが顔見知りになり、道端で会うとあいさつしたり、声をかけ合ったりする姿が見られるようになったといいます。
こうした大人と子どもが一緒に参加する演劇ワークショップにおいて、大人と子どもが対等に対話できるように場を整える、ファシリテーターの存在は重要です。
「親と子、また教師と生徒の関係性では、子どもたちが窮屈な思いをすることもしばしば。なぜなら、大人たちが上から意見を押し付けたり、何でも教えようとしちゃいがちです。そうすると、子どもたちはつまらなそうな顔をするんですよ。本当は、一緒にやりたいんでしょうね。
でも、大人は意見を押し付けまいと頭で分かっていても、ついやってしまうもの。だから、私たちが親とも先生とも違う、不思議な大人としてファシリテーターに入り、関わることに意味があると思っています」
また、別のワークショップでは、創作過程の中でグループで話し合いをする中で、ときにはぶつかることも。ただそこで、異なる意見を持つ人を知り、「なぜ、お互いがぶつかってしまったのか」と考えることは、コミュニケーションを考えるきっかけとしても大切なのです。
大人同士が目的意識を共有することではじまる 「子どもたちが持つ可能性に訴求する芸術体験」
講座の終盤では、渡久地さんと喜舎場さんの活動を聞き、太田さんはじめフロアからの質問を交えたトークセッションが行われました。
アウトリーチの活動には、それなりの出費が伴います。基本的にコストは自費でまかないますが、継続的な活動のためには支援が必要となります。一般的には、文化庁の助成金や一般財団法人や企業、訪問先の団体などから支援をもらうのが通例に挙げられますが、「(病院の先生の例のように)個人に支援してもらう形もあるのか」と太田さんは質問します。
「先ほどの病院の先生は、小学校からお世話になっていて、ご自身もフルートを吹かれるんです。学校の先生にもツテを持っており、病院の先生から紹介していただきました。地元本部町という地域性もありますが、お互いに顔が見えて、近い距離にいるから、ご支援いただけたと思います」(渡久地)
アウトリーチ事業の窓口になるのは、学校の先生です。すぐに意義や理解を示してくれる方もいれば、有名なアーティストを希望したり、事業内容を指定したりする方もいます。そうした中で、「学校の先生たちのアウトリーチに対する要望に変化がありますか」と太田さんが深堀りして聞きます。
「確かに、変わってきていると思います。以前は、『うちの吹奏楽部には、こういう課題があるから1パートだけやりたい』という声もありました。しかし、例えば合奏を行うときに、コントラバスなど、どんなパートでも音が出ないと、全ての演奏がダメになりますよね。
これからは、クラシック奏者を全員お呼びして、その中で子どもたちが一奏者として、どうやったらいい音が出るのか一緒に考えてもらうようなクリニックを構想しています」(渡久地)
会場内の受講生たちが関心を示した喜舎場さんのうらそえぐすく児童センターの事例について、「苦労されたことはありますか」と太田さんが聞きました。
「大人と子どもたちとの関係性には気をつけました。一方的なコミュニケーションにならないよう、発表会のテーマを『おじいちゃんが経験した、過去のエピソード』にしました。内容を考えていく中で、まず子どもが聞き、それに大人が答える関係性を導くように心がけました」(喜舎場)
しかし、周りにいる大人にコミュニケーションの意義を理解してもらえないこともあるのではないか。「地域のおじいちゃん、おばあちゃんのモチベーションはどうでしたか」と太田は伺いました。
「はじめ、協力してくれた大人たちから『これは、何の意味があるんだ?』と素直に聞かれました。(そこは丁寧に)ワークショップを通して、地域に住む方が顔や名前を覚えてもらい、そこから挨拶しあえる関係性が生まれることで、これからの発表会でも協力しあえると思います」(喜舎場)
編集記 沖縄の子どもに適した、児童演劇の方法を一緒に見つけていく
質疑応答の時間には、演劇ワークショップのファシリテーターを務めるTSJの与那嶺さんが水納島にある水納小学校(在校生わずか2名)で行ったワークショップの様子を伝えてくれました。
「水納島には高校がないため、水納小学校に通う子どもたちは、高校生になると島を離れ、都市部の何百人もいる学校に通います。そこで、初対面の子たちとコミュニケーションができるような対話(ワークショップ)を心がけました」(与那嶺)
また蔵元さんは、太田さんからの、「ファシリテーターとして務めた際に、気をつけたことはありますか」という質問にこう答えました。
「とある学校でワークショップを行なったとき、児童のなかに、3年間保健室登校している子がいました。
次の日も来てほしいという思いがあったので、翌日も来たくなるような役割を与えました。するとその子が翌日もワークショップに参加してくれて、本当にうれしかった」(蔵元)
後日、担任の先生から、徐々に教室で授業を受けるようになり、卒業式まで学校に来てくれたと連絡があり、ワークショップの意義を感じたといいます。
沖縄に限らず、一般の学校以外でも、特別支援学校や児童センター、児童相談所といった、さまざまな環境下の子どもたちがいます。児童演劇を通して、子どもたちがどのようにコミュニケーションを学んでいくのか、必ずしも答えは一つではないとわかりました。
音楽や演劇といったアプローチをきっかけに、型通りの方法ではなく、大人同士がまず子どもたちにとって何が良いか、適度にぶつかりながらディスカッションしていくこと、そして地域に住む人から理解や協力も必要だと感じました。
(取材・撮影、文: 水澤陽介)
事務局から
アーツマネジメント講座2017では、10月5日に講座11「制作現場の安全管理」(浦添市てだこホール 大ホール)、10月17日に講座12「視覚障害、聴覚障害を持つお客様を劇場に迎えるために」(国立劇場おきなわ 小劇場)をテーマにした、劇場での実践講座を開催します。
講座11には、KAAT 神奈川芸術劇場でプロダクションマネージャー、技術監督として、多くの国内外の演劇およびダンス公演に関わる堀内真人さん。
講座12には、ろう者の劇団で俳優・制作として15年以上活動し、現在障がいを持つ方も楽しめる演劇の制作、ワークショップなどを行う廣川麻子さんと、1990年からシンガーソングライターとして活動し、2007年には夫と共に劇団を設立。俳優や演出家、バリアフリーアドバイザーなどとして活躍する美月めぐみさんをゲストにお招きします。
ぜひ、お申し込みのうえ、ご参加ください。
アーツマネジメント講座2017 講座11「制作現場の安全管理」(10/5)/講座12「視覚障害、聴覚障害を持つお客様を劇場に迎えるために」(10/17) 開催!