2017.08.03
芸術をめぐるお金から考える「継続する組織」の作り方《アーツマネジメント講座2017 講座7(7/11)レポート》
「沖縄の芸術文化団体が継続していくために」
講師と受講生が一緒に、これまで続いてきた文化を受け継ぎ、次世代に伝えていく方法を考える「アーツマネジメント講座」。
前回は、民俗芸能の舞台上演をテーマに「民俗芸能をアーカイブする公演の役割」「地域のアイデンティティを民俗芸能の公演を通して伝承する」「民俗芸能は信仰にも作品にもなりえる」などについて考えました。
今回のテーマは、「会計の基礎知識― 継続的な活動に向けて」。
フリーランスで、芸術団体やNPO法人などの会計周りをサポートしている五藤真さんをお招きして、「非営利団体における会計の意義」「助成金との向き合い方」などを伺いました。
芸術団体の意義や成果を裏付ける、会計の役割とは
「芸術文化の領域における会計では、団体のお金の出入りを見ながら、これまでの事業を振り返って、反省点や改善点を見つけていきます。そうすることが、自分たちの目指す方向を知ることにつながるんです」
一般的に会計そのものはバックオフィス(事務処理)と呼ばれ、利益を直接生み出すものではありません。しかし、五藤さんはお金を稼がないからといって、会計をないがしろにしてはいけないといいます。
「会計には、自団体の活動を数字で説明することにより、事業の意義や成果を客観的に裏付けする役割があるんです」
では、どのように会計を行なっていけばいいのでしょうか。
例えば、年次または月次ごとに繰り返し開催している公演に関して、観客動員数や収支を時系列に比較したり、同規模の団体における人件費や公演費の相場などから適正コストの分析をしたりすることが挙げられます。
NPO法人や非営利型の一般社団法人、その他の法人格を有しない団体でも、収益事業を行なった際は、利益からきちんと税金を支払う税法上の義務もあります
「もともと、非営利団体は利益や規模の拡大がゴールではないんですね。だからこそ、会計を通じて、収益事業とその他の事業を分けることで、納税額を抑え、年間の固定費を削減したりもすることができます」
「非営利事業は、赤字活用も」経営者の意思決定を助ける会計判断
芸術文化団体を成長させていくために、次の手を模索し、実行する。こうした戦略を考えていく上で会計が役に立つと五藤さんはいいます。
「経営者が事業の意思決定をする際に、根拠なく決めるのは難しい。会計から導かれた数字があれば、それを判断材料にすることができます」
例えば、演劇団体が50万円の助成金が採択されたとき、公演規模を拡大するのか、公演のチラシデザインまたは記録費に使うのか、海外視察といった投資を活用するのか、会計上の数字に当てはめながら考えていきます。
また、芸術活動を行う団体は、「稼ぐ」ことが中心ではない非営利団体であることが多いため、あるジレンマに陥りやすいといいます。
「利益中心ではない事業は、人件費も踏まえると赤字になりやすい。資金繰りとして、支払いを遅らせる、入金を早めてもらう、お金を借りるという選択肢以外にも、赤字の事業の費用や成果を収益事業に活用することや節制する感覚を持つことも必要です」
「ビジョンに対して事業費を当てはめる」これからを見据えた資産の投資
いくら非営利団体といっても、公演などで一定の利益を上げて、団体内に投資をしていかないと事業は継続していきません。
「たとえば、チケット単価や動員数を上げて、一公演あたりの収入を増やしたり、ステージ数を増やして公演全体の収入を上げることなど、自助努力も大切です。しかしそれ以外にも、団体外で収入源を持つことも一つの手です」
自団体の公演をインターネット上にコンテンツとして配信し、その権利に見合った対価をもらうこと。演劇を培った技能をワークショップとして他業種などに伝えることも、事業外収益として考えられます。
さらに、3年、5年後も団体が存続するように、自己資産を把握して、投資していくことも欠かせないといいます。
「自団体の資産として、ヒト・モノ・コトがありますが、中でも長期的に関わっていくスタッフに投資して、経験を積ませることは重要です。お金を稼ぐことは、目標や目的ではありません。団体として追いたい目標を数字に置き換えていくのが会計なんです」
「助成金は、損益を示す“点”から“線”で捉える」助成支援との正しい付き合い方
芸術団体によっては、文化庁の助成金が採択されるかどうかによって一喜一憂することも。助成金をきっかけに大きな事業が行えるものの、適正な付き合い方が求められます。
「現実問題として、芸術団体の安定的な団体運営には、助成金を欠かすことができなくなってくるのがほとんどです。助成金がないと立ち行かなくなってしまうという構造的な問題から抜け出すことは、簡単ではありません」
助成事業は、採択されたとしても収支により補填額が変動します。そのため、事業の損益分岐点が流動的になり(上図参照)、まるで損益分岐「線」だと五藤さんは指摘します。
それゆえ、どれだけスタッフの努力で事業収益を生んだとしても、それをスタッフ自身に還元することは難しく、結果として、組織内のモチベーション低下を引き起こしてしまうことも多いといいます。
地方公共団体に、芸術文化団体の会計を理解してもらうことも重要です。
「地方公共団体の予算の捉え方は民間とは異なるんです。そのため、民間の予算の仕組みについても理解している担当が地方公共団体にいると、非営利団体の活動に適した助成支援を行なってもらえるので、非営利団体としては心強いです」
会計の役割を深く学ぶだけでなく、その端々で、やわらかな表情や言葉から芸術活動に対する五藤さんの想いも感じとれる、あっという間の2時間でした。
沖縄の芸術団体が「タコつぼ」化にしないために
「具体的にどのような活動が投資として挙げられるか」という質問が挙がりました。
「海外にある芸術団体などを視察して、ネットワークや視野を広げていく活動には意味があります。現地で得た知見をもとに、半年に一回、もしくは年に一回は事業費の検証をし、自分たちがどのようにお金を使っているのか、団体内で共有していくと組織のビジョンも明確になっていきます」
沖縄に拠点を置いて活動していると、いつの間にか身の回りにいるのは知人だけ。気づかないうちに地域という「タコつぼ」に安住し、外の世界が見なくなっている自分に気づくことがあります。
そんな「タコつぼ」から抜け出すには、海外にネットワークを広げる以外にも、「他の地域で活躍する組織に声を掛けて、組織の運営方法を一緒に考える」「他団体に短期研修へ行き、自身の知見を広げる」など、もっと身近なところにきっかけを作るのもいいかもしれません。
(取材・撮影、文: 水澤陽介)
事務局から
8月29日に「アーツマネジメント研修派遣修了者報告会」、特別講座トークセッション「地域コミュニティと芸術~場づくりを支える」を沖縄市民会館中ホールで開催します。
昨年度、KAAT神奈川芸術劇場、三陸国際芸術祭事務局でそれぞれ研修を行った2名の研修者が、研修と現在の活動について報告します。特別講座トークセッションでは、全国でダンスと社会をつなぐ活動をしている一方、三陸国際芸術祭のプロデューサーでもある佐東範一さん、足立区(東京都)でアートでコミュニティをつなぐ活動を展開している吉田武司さんをゲストに、沖縄市の取組みについてもうかがいます。ぜひ、お申し込みの上、ご来場ください。