2017.07.30
「民俗芸能との関わりは、地域のリスペクトからはじまる」文化を伝承していくこれからの関係性《アーツマネジメント講座2017 講座6(7/4)レポート》
「沖縄を見つめなおし、地域に根付く文化資源を活かし、つなぎ、未来をつくっていく」
沖縄の文化資源を発見・再発見し、後世に伝えていくために、講師と受講生が一緒に考える「アーツマネジメント講座」。
前回は、 道場経営をテーマに「常識に捉われない経営戦略」「生徒(顧客)との信頼関係」「パフォーマンスを上げるサポートと安全のための保険」などについて考えました。
今回のテーマは、「『民俗芸能』を舞台で上演するには」。
「国立劇場おきなわ」で芸能の調査研究をする茂木仁史さんをお招きし、「民俗芸能とは何か」「民俗芸能を舞台で上演するための考え方」について伺いました。
「民俗芸能は、生きるための祈りからはじまる」
「民俗芸能とは、地域の祭や行事などで代々受け継がれている芸能のこと」
講座のはじめに、茂木さんはそう話します。
「同じ芸能でも、興行である歌舞伎や宮中で行われる雅楽などは、民俗芸能とは言いません。民俗芸能は郷土芸能とも呼ばれ、もとをたどれば、地域に暮らす人々の願いを霊(神)に伝える、宗教的な祈りから生まれたものでした」
さらに、願いが叶えられたときや、これから起きる良いことについても、あらかじめ霊に感謝し、「芸能」を「奉納」してきたと言います。
「民俗芸能という芸能はなく、たとえ歌舞伎や雅楽であっても、地域住民が地域の行事として行い、伝承していくことで民俗芸能になるのです」
「古来、豊作祈願や雨乞いのため、歌や踊りが行われてきました。巫女が霊を呼び、憑依するために行った旋回運動は、洗練されて『舞』になりました。
また、よそから伝播してきた芸能が、地域で伝承される中で変化してゆき、独自のスタイルになっていくことも、民俗芸能の魅力です」
エイサーから紐とく、地域特有の芸能が生まれていく経緯
「例えばエイサーは、もともと仏教の普及のために、伝来しました。最初は一つの踊りだったのでしょうが、年に1度の伝言ゲームのように、伝わっていく過程で、地域ごとに踊りのスタイルが変わっていきました。さらに、戦後のコンクールによって独自性に創意工夫が加わり、地域の青年会などに根付きました。」
グローバル化の進む現代では、エイサーが字(町や村の一角)から沖縄全体に広がり、ときに洋楽まで取り入れられるなどして、人気を博しています。これらも伝承される中で「沖縄の民俗芸能」となるでしょう。
また、首里王府で行われていた組踊や舞踊、路次楽(行進曲)なども、地域に入って姿を変えつつ伝承されています。そもそも、獅子なども広くアジア一帯に伝わる芸能ですが、それぞれの地域により姿を変えながら伝承されています」
こうした民俗芸能は、 地域住民が一緒になって歌い、踊り、参加することで、お互いの絆を深めてコミュニティを強固にするなど、副次的な機能も果たしてきたのです。
民俗芸能を舞台で上演する、公演の役割とは
「ある地域の民俗芸能を舞台で上演するときは、芸能そのものだけでなく、背景にある地域の歴史や環境、そこで培われてきたアイデンティティも大事にしなければいけません。
そのためには、パンフレットや解説、時には事前の講座なども一緒に整え、深い理解と共感を得られるよう工夫すべきでしょう。地域文化を知ってもらうことは、交流人口の増加にもつながります」
観客にとって劇場で見る公演は、その地域との距離や時間、移動の経費を軽減でき、整った環境で鑑賞に集中できるというメリットがあるといいます。
「地域コミュニティを侵さないように」リスペクトからはじまる民俗芸能の舞台づくり
地域に息づく芸能を舞台化する時、どんなことに気を付けるべきでしょうか。
最も心がけるべきことは、地域的信仰や集団的結束を侵さないよう、細心の注意を払うことだといいます。
「舞台化に向けて、地域へのリスペクトが根底になくてはなりません。もちろん、公演を行うことは経済行為ですから、何でも地元の通りにという訳にはいきません。演目や人数など、何が大事かを見極め、地元の人たちの理解を得ながら、その真髄を舞台化して観客に届けることが望まれます」
地域を消費するのではなく、地域の暮らしと想いをすくい上げ、そこから舞台のコンセプトを組み立てていくのだといいます。
「民俗芸能には、地域で暮らす人々の願いが凝縮しています。だからこそ、舞台上ではより魅力的に伝えられるようにしたい。それぞれの特徴や裏側にある思いをどのように観客に紹介していけるかが私たちの仕事です」
地域に暮らす人々の生活文化をふまえて一つの舞台が作られます。その背景にまで目を向けることで、民俗芸能の楽しみ方も広がるのではないでしょうか。
編集記 「“沖縄うまれ”というルーツが、地域の信頼性を育むことも」
「ご自身で演出されたものとは別に、沖縄の民俗芸能公演で心に残ったものは?」という質問が挙がりました。
「最近だと、国立劇場おきなわで行われた『民俗芸能公演 沖縄本島民俗芸能祭(八重瀬町)』。八重瀬町出身の神谷武史さんが、構成・演出した公演です。神谷さんの地元だから芸能を熟知していたことと、地域の人々との信頼関係があって、大胆に構成しながらも決して民俗的コンセプトを損なうことのない、大変見ごたえのある舞台でした」
沖縄にルーツがあることは、公演の演出として地域特有の空気や時間の流れを表現することができ、地域資源の新たな活用方法にもつながります。その地域とゆかりがあるからこそ利用できる物や場所、つなぐことができる人などを見直してみるのもよいかもしれませんね。
茂木さんの講座を通して、私自身、地元新潟の胎内市での行事を思い出しました。それは、正月に集落唯一の神社に村民がつどい、新しい一年の無病息災を願うというもの。当たり前のように行なってきたことが伝統として現在も引き継がれていることを実感します。自分のルーツを思い出し、地元の暮らしぶりを再発見できた時間でした。
(取材・撮影、文: 水澤陽介)
事務局から
8月29日に「アーツマネジメント研修派遣修了者報告会」、特別講座トークセッション「地域コミュニティと芸術~場づくりを支える」を沖縄市民会館中ホールで開催します。
昨年度、KAAT神奈川芸術劇場、三陸国際芸術祭事務局でそれぞれ研修を行った2名の研修者が、研修と現在の活動について報告します。特別講座トークセッションでは、全国でダンスと社会をつなぐ活動をしている一方、三陸国際芸術祭のプロデューサーでもある佐東範一さん、足立区(東京都)でアートでコミュニティをつなぐ活動を展開している吉田武司さんをゲストに、沖縄市の取組みについてもうかがいます。ぜひ、お申し込みの上、ご来場ください。