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2017.06.13

時代の変化とともに変わる劇場が、これから目指すべき道—劇場コンサルタント草加叔也さん《アーツマネジメント講座2017 講座1(6/1)レポート》

「沖縄の地域文化を豊かにしていくためにできることは?」

その場にいる登壇者も参加者も、立場や視点は違えど沖縄に根ざした文化芸術を閉ざしたくない、そんな志を共有できる場があります。

公益社団法人「日本芸能実演家団体協議会」が開催する「アーツマネジメント講座」は、6月から7月にかけて、計10回行われる連続講座です。2013年から続く本講座は、劇場などでの公演にあたっての企画から宣伝、マネジメントといった持続的な事業のためには、と私たちに問いかけてくれます。

1回目は、「アーツマネジメント概論公演活動に不可欠なものは?」をテーマに、空間創造研究所代表で劇場コンサルタントの草加叔也さんをお招きしました。今、我が国の「公設劇場・音楽堂」は転換期を迎えています。過去、集会や大会のための「公会堂」と呼称されてきた時代から、劇場はどのように変化してきたのか。それにまつわる法整備や助成金の活用例について語ります。

 

「受信型から発信型へ」 時代とともに変化する施設の役割を考える

草加叔也さん。1995 年、劇場コンサルタント事務所創設。過去に国立劇場おきなわはじめ多数の劇場・ホールの整備・改修に関わる。現在は、東京都の東京芸術文化評議会、オリンピック文化プログラム検討部会、ホール・劇場等問題調査部会などを務める

演劇や舞踊といった公演を行う上で欠かせないもの、それは「公立の劇場・音楽堂」という場の存在です。「公会堂は、戦後の日本において、さまざまな方が伝聞を広めるための“メディア”的な役割と戦後の混乱期から復興を願い、芸能や演芸などを楽しむことで世相の安定と自らの“表現を取り戻す”役目を果たしていた」と草加さんは語ります。

 

公立の劇場・音楽堂等は、戦後から今日まで「講堂型公会堂建築→劇場型多目的ホール→専用ホール→創造支援型劇場」と役割を進化させてきました。

高度成長期に入り、文化として多様性が求められ、すべてを受け入れられるような、“受信型”の「多目的ホール」が増えていきます。
 
しかし、時代の期待は徐々に拡大しますが、多目的だといっても、1つの器(劇場)にオーケストラ、オペラ、劇団、歌舞伎など性質が異なる文化をすべて許容することがなくなります。また、ただ観賞して終わりではなく、より洗練された、クオリティの高いステージを観客といっしょに共有したい。そういった要望から、例えば高い建築音響機能を整えた「専用ホール」も生まれてきました。
 
「1990年代から創造支援型施設が創られ始めます。例えば、水戸芸術館は地域住民への貸館は行っていない。自らが芸術を企画・創造し、発信していくことに主眼を置いている」(草加)

ただバブル崩壊を機に、地方公共団体と施設との関係性は小さな齟齬を生みだしていったのです。

 

地方で問われる、「公立文化施設の価値」の届け方

「30年前まで、劇場利用の半分は街に住む人たちが集まるコミュニティに重心を置いた場だったんです。だから、施設は地域ごとに均等にあることが求められた」(草加)

1999年まで、日本には3232もの都道府県・市町村があり、それぞれの行政は劇場が地域の集会場としての機能に加えて、市民が文化芸術活動利用の場と考え、相次いで建築。結果として約2200館まで増えていきました。

しかし、平成の大合併をきっかけに、地方公共団体の数は約1750まで縮小。地方自治体の税収が減る一方で、公立文化施設は、2013年に入っても2192館と横ばいが続いている。「高い劇場設備・機能を備えながら、それらが活かされていない公立文化施設の役割とはなんですか?」と疑問符を付けられていきます。

「沖縄県内にある22もの施設の役割も、問われています。例えば、うるま市では過去、同市内に4つのホールがありましたが、『本当に、4つも必要なのか?』と課題として挙げられました」と指摘する

昨今、老朽化する施設の建て替えをどうするかという課題があり、さらに統計データから「芸術に触れる・触れない」の二極化が進んでいるという考察も。地方で劇場に行く方は人口全体の3割もいない、残りの7割は未だ関心を示していない現状があります。
 
「文化芸術に興味がない層をいかに開拓していけるか。それが、文化芸術に関わる私たちの今後の仕事です」(草加)

 

劇場内を取り巻く、7つの「負のスパイラル」とは?

劇場・音楽堂等内部にも課題が山積。「専門人材」・「活用活動」・「貸館中心」・「文化経費」・「指定管理」・「指定期間」といった施設に対する制度的な在り方を考え直すべきとのこと

劇場が持続性ある事業を行っていくためには、「劇場の仕組みについても見直していかなければ」と運営の裏側についてもお話しされました。

「制作などにおける専門性を有する人材不足が見られます。〝好きだったらやればいい″そんな昔風のマインドだけで、今の若者たちに共感してもらえるのでしょうか」(草加)

そこには劇場内を取り巻く、7つの「負のスパイラル」があることが、「劇場、音楽堂等活性化に関する法律」の制定過程で課題として上げられています。

劇場・音楽堂等の課題として「機能齟齬」「地域格差」「連携不足」「人材不足」「観客開拓」「管理中心」「効率重視」の7つが挙げられます

1、機能齟齬
本来目的とする音楽、舞踊、演劇といった文化芸術ではなく、スポーツや集会での利用されているという「目的の不一致」
 
2、地域格差
地方と都市における人口の差によって、地方在住者は文化芸能に接することが少ない「機会損失」
 
3、連携不足
劇場・音楽堂等、同様の文化芸術団体や、フィールドを越境した教育機関や公共団体との「連携不足」
 
4、人材不足
文化芸術の仕事は、“きつい・長時間労働・安賃金”といった労働実態からの脱却

5、観客開拓
観劇・演芸鑑賞・音楽会・コンサート等といった観賞に行く割合が下がっている「余暇の多様化」
 
6、管理中心
施設を管理、運営することが業務の中心となり、劇場本来機能を見失っている「機能偏重」
 
7、効率重視
指定管理者制度を活用できるようにはなったが、その導入効果を「経費の縮減」にだけ求める「評価の誤認識」

 

「ハードウェア・ソフトウェア・ヒューマンウェアのバランスを保っていく機関を創設していく」

では、これからの劇場が目指すべき先とはなにか。
 
「ハードウェア」と「ソフトウェア」と「ヒューマンウェア」の三位一体のバランスを保ち、芸術文化を継続的に創造あるいは発信していく意思を備えた機関にしていく必要があると言います。

「ハードウェア(施設・設備)とヒューマンウェア(組織・職能)があってこそのソフトウェア(事業・活動)。たとえ、器があっても“人”と“活”がない劇場は劇場と呼べない」(草加)

『劇場、音楽堂等の活性化に関する法律』では、「劇場、音楽堂等は、文化芸術に関する活動を行うための施設及びその施設の運営に係る人的体制」を持ち、「創意と知見をもって実演芸術の公演を企画し、又は行うこと等により、これを一般公衆に鑑賞させること」と定義しています。
 
これからの劇場・音楽堂が果たす役割はまだまだたくさんあります。そのために、助成金の活用も方策として注目すべきだと、近年のデータとともに解説してもらいました。

「2017年の助成金応募は、全国の施設のうち約10パーセント(224件)程度にしかすぎません。劇場・音楽堂等活性化事業や共同制作支援事業の助成金では、応募に対して8割ほど採択されている。つまり、限られた施設しか応募・採択されていない状況で、この制度の恩恵を受ける劇場、音楽堂の固定化が顕著になりつつあります」(草加)

日本全国の文化芸術を取り巻く環境は、それぞれのハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアでつくられていくもの。ここに、どのように助成金を使っていくのか、これからの可能性を示唆してもらいました。

 

編集記 沖縄芸術の可能性を探って

会場には、実演芸術に関わるもの、行政担当者、芸術に関心を寄せる方たちが、草加さんの話しをメモしながら真剣に耳を傾けていました。

熱気冷めやまぬ会場からは、劇場に足を伸ばさない20、30代の若者を呼び込むには、どのような取り組みがあるか、と手が挙がりました。
 

「前提として、文化芸術の振興は林業だと私に教えてくれた方がいました。まさに言い得て妙で、僕たちは孫たちが食べさせていくために木を植えていく。10年後、100年後に続く子孫のため、今から木に育てていくこと。芸術も同じで、文化振興の施策としては何よりも次世代への投資が重要です」(草加)

アジアに近い沖縄なら、芸術をエンターテイメント化にしてインバウンド需要に応えていくことも可能です。若い観光客なら、夜に一杯ではなくナイトライフを楽しんでもらえるよう、設計してみてはどうか、と草加さんは加えて応えていました。
 
草加さんも参加者も案を出し合いながら、沖縄しかできないことは何かと最後まで考え抜く姿が見られました。ここに、課題に挙げられた連携不足を解決するヒントがあったのではないかと感じます。

演劇にとどまらず、ライターの私もこうして芸術に興味を持たせていただく場にいること自体、芸術にふれる交流人口が増やしていくきっかけになっているはずです。
 


(取材・撮影、文: 水澤陽介)

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