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2017.03.31

アーツマネジメント講座2016 講座⑧『ここだけはおさえたい!~契約の基礎知識』11月22日レポート

講座8は、公演の主催者と出演者、会場との間でも欠かせない契約の話。
難しいから…法律の専門家じゃないから…と、適当に済ませていませんか?
お互いの権利をまもり、トラブルを未然に回避するためにも、最低限身につけておきたい契約実務があります。

音楽制作会社の契約担当になったことをきっかけに法律の勉強を始め、今や契約の専門家になったという異色の経歴をもつ安藤和宏さんを講師に迎え、実務者の目線から契約書のいろはを教えていただきました。

一般的に「契約」とは、当事者の自由な意思によって取り決められた合意のことで、債権・債務が発生する、と法律用語集には書かれています。
公演の出演契約などは、当事者間の合意のみで成立する不要式契約と呼ばれるもので、口頭(口約束)でも成立します。
しかし、口頭だけでの契約では、多くのデメリットがあるのです。よくあるのは、「言った・言わない」の紛争ですね。

しかし、契約書を作成しておけば、お互いの権利・義務が明確にもなり、「言った・言わない」紛争を未然に防ぐことができます。さらに、契約書に、お互いの義務を記載しておくことで、自分が行うべき仕事(あるいは相手が行うべき仕事)が確認できます。結果として、仕事を円滑に進められるようになるという大きなメリットがあります。
また、契約書は記録文書にもなるので、たとえば担当者が異動や退職で不在になってしまっても、契約書が残っていれば、取引内容が把握できます。

ただ、契約書を読むこと、作成すること、捺印することには、抵抗を感じる人も多いですね。
たしかに、契約書には難しい言葉がならび、とても専門的な書面になりがちで、分かりにくい!読みにくい!読むの嫌になる!

そこで、安藤氏から、ディール・メモ(deal memo=取引のメモ)を作成する、という技を教えていただきました。
ディール・メモとは、当事者が合意した基本的な条件だけを記載したもの
例えば、①出演者、②報酬(出演料)、③場所(会場)、④日程・公演時間、⑤食事代・交通費・宿泊費の有無 のような、当事者どうしで合意した内容を、簡潔にまとめたもの。
専門用語や、難しい言葉を羅列する必要はなく、とても読みやすく、誰でも簡単に作ることができます。

このディール・メモを、相手にもメール(またはfaxや手紙でも)で送っておけば、後々に契約書を作成するときにもスムーズに進みます。また、当事者以外の人にも、契約の内容が分かりやすくなります。
また、いざ契約書を交わす際に、契約書とディール・メモの内容が違っていたり、相手方の都合でキャンセルされたときなどにも、ディール・メモがあれば「契約締結上の過失」という理由で相手を訴えることもでき、不利益を被らずにすみます。
誰でも簡単に始められる上に、契約書の原案としても用いることができ、後々のトラブル回避にも役立つ。これは、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

しかし、交渉は、なかなか難しい場合もありますね。民法上は、「当事者間の力関係が同じである」という前提で、契約交渉がなされると想定しています。しかし、実際には、どちらかの力が上で、どちらかが下という場合が多いのではないでしょうか。力関係の弱い側、つまり交渉力が弱い当事者は、どうしても不利な条件で契約せざるを得ないことも多いといいます。

そうしたケースでは、少しでも有利に交渉を進めるためのテクニックとして、交渉項目に優先順位をつけるという技も。
例えばイベントに大物アーティストを呼びたい場合、様々な交渉項目がありますが、①出演者、②出演料、③日時、④会場、⑤物販の有無、⑥スタッフの数…と、交渉の優先順位を頭に入れて、しっかりと自分のイメージを作ってから交渉に臨むことが大切だといいます。
その上で、双方が歩み寄り、どちらもが承諾可能な「着地点」を見つけるのが、契約交渉の仕事です。

と、ここまで、契約書の重要性は理解できましたが、やはりいざ作成するとなると及び腰になってしまうもの…
しかし、契約書の作成は1から自分で作成する必要はないのです。
なぜなら、契約書の文面に著作権はないのです!
インターネットで検索すると、いろいろなタイプの契約書のフォーマットが出てきます。もちろん、自社の特異性に忠実に作成するならば、専門家に作成依頼するのもひとつの手。ですが、まずはインターネット上で無料で配布されているフォーマットをダウンロードしてみてはいかがでしょう?
ちなみに、安藤氏のサイト「セプティマ・レイ」でも、無料で契約書フォーマットがダウンロードできます。
そして、よい条文、分かりやすい書き方のものを取り入れて、どんどんカスタマイズしていくのも手ですね。
それでも、条文では書ききれない「例外」が生じる場合があります。これは、契約書の最後に、明記しておくと良いそうです。

また、大切なことは、契約書の作成者は、相手に説明できるように、契約書の内容を完全に理解しておくこと
契約書の案を作成したら、まず相手に文面を確認してもらい、必ず承諾を得た上で、正本を作成すること。いきなり正本を送りつけるのはマナー違反ですよ。
逆に、相手から案が届いた場合には、ディール・メモの基本条項が、すべて契約書に反映されているかをきちんと確認し、違ったところがあればきちんと協議する必要があります。

自身が契約書を作成する側にならない場合も多いかとは思いますが、相手のためにも、自分のためにも、契約書を読む力はぜひ身につけたいですね。

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講座8 ここだけはおさえたい!~契約の基礎知識

日時】平成28年11月22日(火)18:30~20:30
講師】安藤和宏(東洋大学法学部准教授)
会場】沖縄県男女共同参画センターてぃるる

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