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2017.01.05

アーツマネジメント講座2016 講座④『地域と演劇~ツアー公演と社会包摂プログラム』10月27日レポート

アーツマネジメント講座2016、10月末からは2週間ごとに連続開催しています!
いろんなテーマを掲げて、全国から話し手をお招きしています。レポート作成がとっても遅くなっていますが、少しずつでもご紹介していきます。

★DSC0114310月27日は、地域と演劇~ツアー公演と社会包摂プログラム』をテーマに、全国各地へのツアー公演、そして地域密着のプログラムを実践している劇団・青年劇場から、福島明夫さん(制作)、佐藤尚子さん(俳優)を招き、お話いただきました。
まずは、参加者全員による自己紹介。参加者からは、「芸術団体への補助金がどういった形で役に立っているのか具体的に知りたい」、「観光促進に演劇を活用できるか知りたい」、「実演家の立場からどのように社会包摂に関わっていけるかヒントを得たい」など、具体的な問題意識もあがりました。

これを受けて、福島さんから、青年劇場の劇団経営、公演活動の資金繰りについてのお話。
青年劇場は東京に拠点を置く劇団ですが、劇団としての継続性、そして次の芝居に向けたの土台をつくりだすために、年間200回近く、東京以外の地域での公演を実施しているといいます。文化庁の助成団体にも採択され、年間1000万円以上の助成金を受けていますが、それは劇団全体の収入の1割程度。ほか9割は、公演のチケット収入、巡回公演からの収益だそうです。

そうした全国での巡回公演運営を、長年にわたりどのように組み立ててきたのか。沖縄での公演にも数多く参加してきた俳優の佐藤尚子さんからお話いただきました。
青年劇場の初の沖縄公演は、1981年の『かげの砦』。障害児学級の問題を取りあげた作品で、“社会包摂”の前段となるような作品だったと振り返ります。
その後も、パレスチナ問題を取り上げた『少年とラクダ』(1985年上演)、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』(1989年上演)、学校間格差を取りあげた『翼をください』(1999年上演)、沖縄の基地問題にせまった『普天間』(2012年上演)まで、継続的に沖縄での公演を実現しています。
とくに、学校公演を重要視し、沖縄での公演も、中学校・高校を中心に、一般客の動員も絡ませる形が主流でした。公演の一年半前から、各学校とのやりとりを始め、学校行事との調整をし、さらに直接各校へ出向いて先生方と話を進めたと言います。予算が少ない中で実施するにあたり、複数の学校が一緒に鑑賞してもらえるよう工夫するのですが、学校間や会場との調整が大変だったとのこと。
たとえば、会場となる劇場・ホールが主導する形で周辺の学校を取りまとめて、地域をあげて鑑賞の機会をつくりだすように考えてくれると、芸術団体(公演する側)はツアー公演に取り組みやすくなるのでは、という提案がありました。

さらに、定着した観客のいない地域での公演は、観客をつくりだすことが一番大変。沖縄でも、一般向け公演の集客には、非常に苦労したといいます。学校公演で知り合った教育関係者や劇場関係の方々から、県内の芸術団体やマスコミの方に、人脈をたどって広げ、ようやく公演につなげられたのだそうです。
とくに、『普天間』(2012年上演)では、すべて一般向け公演として挑戦。政治的な題材を扱っていたため、難色を示す方もいたそうですが、各会場ごとに実行委員会を立ち上げ、最終的に数百人の方に協力してもらう形で公演実現に至ったといいます。
こうして、地域ごとに人とのつながりをつくるよう努め、現在に至るまで持続的に協力しあえる関係性・人脈を築きあげることができたことが、巡回公演の継続的な実施につながっているといいます。
公演する側である芸術団体は、どういう人達が自分たちの公演実現のために主体的に動いてくれそうかを、常に把握することが大事だそう。
主体的に作品に関わり、情報を発信してくれる人、すなわち“共犯者”を、いかに多く作れるかが、公演成功の鍵になる」という言葉が印象的でした。

★DSC01145また、演劇をとおして、地域社会にどう関わることができるのか。演劇の担い手の一人として、佐藤さん自身も関わる足利市の事例を紹介いただきました。
足利市は演劇が大変盛んで、市民劇団やアマチュア劇団も数々育ってきた地域。その背景には、学校公演が今なお継続的に行われていて、子どものうちから定期的に観劇やワークショップなど、演劇に触れる機会があることが挙げられました。これは、少なからず、将来の観客創造につながっているのではないか、とのこと。
また、文化庁「文化芸術による創造のまち支援事業」への申請をきっかけに、地域の劇場・ホールを中心とした市民ネットワークができあがったことも挙げられました。ホール付属のシニア劇団を結成し、観客動員1000人を超える大規模な公演を毎年成功させているのだそうです。
この取り組みを通して、地域の高齢者が市民活動に積極的に参加するようになり、市民のなかに、行政に向き合う意識が芽生えてきたといいます。市民会館を中心に、自分たちの街をどんな街にしたいのか。そうした明確なコンセプトを、会館の運営者、演劇関係者のあいだで共有し、市民も参加できるコミュニティをつくりあげているといいます。

舞台に立つだけでなく、つくる、観る、手伝う、考える…参加のしかたは人それぞれ。そうした活動を通して、地域のさまざまな年代・職業の人々がつながり、それが地域を支える大きな力になる。
とくに、演者だけでないさまざまな関わり方が可能である実演芸術には、そうした動きを自然につくりだす力があるのかもしれません。

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講座4『地域と演劇~ツアー公演と社会包摂プログラム』

【日時】2016年10月27日(木) 18:30~20:30
【講師】福島明夫(劇団青年劇場 代表/制作)
    佐藤尚子(劇団青年劇場/俳優)
【会場】沖縄県男女共同参画センターてぃるる

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