2016.12.22
アーツマネジメント講座2016 講座③『劇場と舞台技術~伝える魅せる舞台効果の技術』9月24日レポート
講座3は、『劇場と舞台技術~伝える魅せる舞台効果の技術』というテーマで、北九州芸術劇場から3人の舞台技術スタッフをお招きして実施しました。
この回は、宜野座村がらまんホールを会場に、実際にホールに音響、照明を仕込んでの実践講座です。
はじめに、中村国寿さん(北九州芸術劇場・舞台技術課長)から、劇場に関わるさまざまな職種・職域の専門家の役割について、そしてどのように舞台上での安全を保つ体制をつくっているのか、お話しいただきました。
公演は、制作者をはじめ、舞台監督、音響・照明・美術デザイナー、衣装、映像など、多種多様な専門性を持つ技術者が集まって、ひとつの作品をつくっていきます。規模の大きな公演になると、数十人のスタッフ、オペレーター、エンジニアが関わることもあるといいます。
演出家、デザイナー、制作者の意図するイメージを、できるかぎり具現化するべく、専門性を集結させて挑みます。
しかし、なかには、高所作業、暗所作業もあります。転落や落下物の危険性がある上に、音響と照明など複数の作業を同時に作業を進めていくことも起こりうるのです。
舞台空間というのは、“自由な表現の空間”ではあるけれど、スタッフ、出演者、そして観客の安全が最優先されなくてはなりません。
劇場では、法令順守を目標にしながら、自主的に安全衛生管理体制基準を設け、統括安全衛生責任者、各部門にも安全管理責任者を置くなど、公演に携わる全ての人が役割を認識し、連携して、安全の確保を果たす責任と義務があるのです。
近年では、舞台監督のほかに、プロダクションマネージャーや技術監督といった名称で、独立した責任者をおいた公演も見かけるようになりました。
芸団協も編集に関わった『舞台技術の共通基礎』(2014年,基準協 発行)も紹介いただきながら、知識だけでなく、避難訓練や対応訓練などを継続的に実践しながら、よりよい体制や連絡体制を考えつづけることが大事であると述べられました。
公演ごとにどういう体制をつくるか。事故を未然にふせぐこと、万が一事故が起こったときにも迅速に対応できるように、公演に関わる全員が情報共有すること。どんな規模の公演であっても、必ず考えなければならないことですね。
つづいては、照明について。
大久保望さん(北九州芸術劇場・照明係チーフ)に、舞台の照明設備についての説明と、光の当て方による見え方の違いなどをお話いただきました。
まず、劇場・ホールによく備えられているライトの種類ごとの特徴の説明。似たような形でも、それぞれに明かりの効果が違います。くっきりと見せたいときはコレ、ぼんやりと見せたいときにはコレ、と具体例をあげながら説明してくださいました。つくりたいイメージによって、いくつもの種類を組み合わせて、照明デザインをしていくんですね。
また、光の当て方による効果の違いも。舞台上の対象(人物や物)に、どの方向から光を当てると、どんな印象になるのか。分かりやすいように、人形(静止物)に光を当ててみますが、照明の当て方によって、怖く見えたり、強そうに見えたり、まったく違う印象になるので驚きです。効果を組み合わせることで、いろんな見せ方をすることができます。
最後には、「花火を見ている」という場面をどう演出するか、実際に高校演劇大会の際にアドバイスしたという演出効果を見せていただきました。舞台上に花火の絵を出すというやり方もありますが、今回は、役者が観客側を向いていて、音と光のタイミングを合わせて出すことで花火を見ているように見せるという演出。とても印象的であり、いっそう想像力がふくらむような演出効果に、参加者からも思わず「おぉ~」という声がもれました。
つづいては、音響について。
雑賀慎吾さん(北九州芸術劇場 音響係)に、北九州芸術劇場で開催する音響講座でも使用しているというテキストを使って、舞台音響家の仕事、実際の仕事の流れについてご説明いただきました。
まず、音響とは、公演制作のなかで唯一聴覚に働きかけるセクションであり、音響家は聴覚の演出家としての要素、演出の感性が求められるということ。台本をしっかり読み込むことから始まり、演出家と綿密な打ち合わせを重ね、演出家や照明家とイメージする方向性を一致させながら、音をプランニングしていくのだそうです。
演劇における音響が表現することは、情景描写や時間設定、場所設定、心情表現、場面転換などがあり、ストーリーをしっかりと把握しておかなければいけません。ドラマの世界を分析しながら、誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どうやって、を観察ポイントにして、作業プランを作っていくことが重要だといいます。
たとえば耳をふさいでみたり、客席での音の聞こえ方の違いも体験できました。
そして、講座の後半では、みじかい詩を題材に、どのように音響と照明で演出するかを実践。
まずは、大久保さん、雑賀さんに、お手本を実演していただきました。
ほとんどリハーサルできなかったのに、さすが!
台本(詩)には、「ここで○○」というようにタイミングがマークされていますが、それだけでなく、音をきく、あかりを見る、と舞台上でのお互いの様子をきちんと感じながらやられていることが分かります。
そしてチームに分かれて、参加者も音響・照明のオペレーションに挑戦!
実際に卓に触れるのは初めての方がほとんどで、皆さんおそるおそる触ってみます。
いよいよ迎えた発表タイム!
観ている方もちょっとドキドキしながらでしたが、緊張しつつも皆さんとっても上手!本番でタイミングを合わせる難しさと、うまくできたときの喜び、観客に観てもらうことの楽しさも感じられたようです。
また、同じ詩でも、BGMや効果音、明かりの色によって、季節や時間、場所もまったく違う演出ができます。演出効果を考えることの楽しさも実感できました。
「照明も、音響も、舞台制作に関わる人達は、観客に何を届けたいか、演出家の表現したいものは何なのか、さまざまな思いや感性を受け止めるだけの知識と器を養っていかなければならない」という言葉が印象的でした。
最後に、中村氏から、季刊花伝舎(芸団協が発行)に掲載されている、沖縄県文化振興会の平田大一理事長の「文化行政には人材育成が不可欠であり、人のつながりがまた人を育てます」という言葉を紹介。
芸術活動のいろんな場面でも、人と話をしたり、コミュニケーションをとることで分かることがあるといいます。そして、今回の講座での出会いや人と人との繋がりも今後のステップにつなげてほしい、という期待の言葉で講座をしめくくりました。
劇場・ホールや芸術団体で企画や制作に携わる方も、一緒に作品をつくる仲間として音響・照明・舞台などの舞台技術セクションと円滑にコミュニケーションをすすめるには、お互いの業務への理解を深めることも大事なことですね。
県内の高校演劇部の生徒さん、県内のエイサー団体の方など、若い年代も多く参加してくださった今回。「こんな仕事があるんだ」と知ってもらう機会になったならば嬉しく思います。
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講座3『劇場と舞台技術~伝える魅せる舞台効果の技術』
【日時】2016年9月24日(土) 13:00-16:00
【会場】宜野座村がらまんホール
【講師】中村国寿(北九州芸術劇場 舞台技術課長)
大久保 望(北九州芸術劇場 照明係チーフ)
雑賀慎吾(北九州芸術劇場 音響係)
【協力】宜野座村がらまんホール、有限会社新舞台