2015.12.10
アーツマネジメント連続講座 講座⑩『国際展開を計画・実施する』7月31日レポート
講座10は国際交流基金アジアセンター部長の下山雅也さんを講師に迎え、アジアセンターの取組を中心にパフォーミングアーツを通した国際交流の計画や実施について学びました。
まずは国際交流基金という組織の概要、そして国際交流基金アジアセンターの取組についてお話しいただきました。
国際交流基金(The Japan Foundation)は、総合的に国際文化交流を実施する日本で唯一の専門機関として1972年に設立されました。文化芸術交流、海外における日本語教育および日本研究・知的交流の3つを主要活動分野としています。現在では、世界21か国に計22か所の事務所を構えています。
国際交流基金は設立以来、日本の文化を世界に発信することを主な活動としてきましたが、2014年から芸術文化の双方向交流を通して、アジアの文化をともにつくることを目指した新たな取り組みが始まりました。
2013年の安倍総理の東南アジア訪問以降、政府はASEAN諸国との関係の強化を重要な政策と位置づけ、「対ASEAN外交5原則」を発表しました。この「対ASEAN外交5原則」は経済協力の強化などのほかに、「(4)アジアの多様な文化、伝統を共に守り、育てていく。」や「(5)未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進する。」といった文化交流の促進に関する指針も掲げられています。
これを受けて、首相官邸内にアジア文化交流懇談会が設置され、半年間の討議を経て「文化のWA (和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」がスタートしました。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて日本とアジア諸国との双方向の文化交流を強化・推進していくこの事業の担当部署として2014年4月に誕生したのが、国際交流基金アジアセンターです。
国際交流基金アジアセンターのミッションとして、以下の4つが挙げられました。
①交流の裾野を広げ、相互理解を促進
②文化の担い手となる人材の育成や、制度や仕組みの整備・発展を促進
③新たなネットワークの形成、持続的な交流基盤・プラットフォームの構築を促進
④新しい価値・ムーブメントの創出、未来に向けた問題提起・提言を促進
つづいて、アジアセンターの取組に関する紹介ビデオを見ながら、これらミッションをもとにどのような活動が行われているのかについてお話しいただきました。
アジアセンターではASEAN諸国に専門人材を派遣し、現地の高校における日本語学習の支援やサッカーの指導などを行っています。
また、東京国際映画祭を通じてアジアにおける映画交流事業を実施しているほか、アジアのストリートダンサーによるダンスバトル「DANCE DANCE ASIA」など文化芸術の振興に関する事業も多数行っています。
これら多様な事業の中でも特に注目されるのが、「Performing Arts Meeting in Yokohama(通称:TPAM)です。
TPAMは、1995年に「東京芸術見本市(Tokyo Performing Arts Market)」としてスタートしたアジアで最も歴史の長い舞台芸術の祭典です。
2014年よりアジアセンターが主催に加わったことで、アジアを代表する現代舞台芸術の国際プラットフォームとしての地位・認知を確立したとともに、アジア地域の自主的な共同制作の活性化と世界での上演機会の増加に貢献しています。
また、アジアセンターでは、「アジア・市民交流助成プログラム」や「アジア・フェローシップ・プログラム」などいくつかの助成プログラムが用意されていますが、その中のひとつに「アジア・文化創造協働助成プログラム」があります。
これは、アジアにおける文化芸術・知的交流・スポーツの各分野の専門家・専門機関が取り組む共同制作や共同研究等の協働事業及びその成果発信事業について、その経費の一部が助成されるものです。
この連続講座10とタイアップしている「国際児童・青少年国際演劇フェスティバルおきなわ りっかりっか*フェスタ」も、国際交流基金の助成を受けて実施されています。『歌舞劇ラーマヤナ』や『小さな紳士〜アジア伝統楽器バージョン〜』など、アジアセンターが共同主催となって行われた公演もあります。
今から10年以上前、下山さんが東南アジアの諸都市に駐在されていたころは、現地の行政や企業が、現地のパフォーミングアーツのカンパニーを支援するなど全く考えられないことだったそうです。
しかし、最近では政府系または民間の財団なども徐々に誕生し始めており、マレーシアやインドネシアなどにおいてはパフォーミングアーツに対するファンドレイジングの意識もかなり高まってきているといいます。
シンガポールに至っては、現地のカンパニーが海外公演する際に、1,000万円単位の支援がなされる時代になりました。
ASEAN諸国においてパフォーミングアーツの振興に対する気運が高まっている現在、アジアセンターをプラットフォームに各国の実演芸術団体が相互連携を図り、そして共同制作につなげていくことはとても重要です。
「りっかりっか*フェスタ」においてASEAN諸国のパフォーマーが共同で作り上げた『小さな紳士〜アジア伝統楽器バージョン〜』は、その成果のひとつと言えるのではないでしょうか。
講座の後半は、沖縄とアジア諸国の文化芸術の交流について、受講者も交えた積極的な意見交換が行われました。
文化施設に勤める受講者は、「近々ガムランの演奏団体を招いての公演が控えているが、なかなか現地の情報が得られなくて困っている。アジアセンターにはそういった情報紹介の窓口的役割を担ってほしい」と話されました。
福岡から「りっかりっか*フェスタ」にいらしていた受講者からは、韓国プサン市と姉妹都市を結んでいる福岡市の文化交流事業について紹介がありました。今後の展開として、交流から一歩進んで、演劇やダンスなどの共同制作を行っていきたいと考えているそうです。
中国の蘇州と交流を深めている南城市の方は、南城市シュガーホールで行われた蘇州市芸術交流団による演奏会のお話をしてくださいました。
話題は沖縄の文化芸術の振興の在り方にまで発展。
「りっかりっか*フェスタ」へ県内各地からだけでなく県外からも多くの方々が集まったこともあり、施設や行政、芸術団体など、さまざまな立場の人たちが積極的に意見を出し合い、とても有意義なディスカッションになりました。