2015.10.16
アーツマネジメント連続講座 講座⑧『芸術活動と法務―契約と著作権、公演をめぐる法律』6月29日レポート
講座8「芸術活動と法務―契約と著作権、公演をめぐる法律」の1日目の講師は、本事業の事務局を務める公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協]の増山周 事務局長です。
なぜこのテーマで、芸団協事務局長が講師を?それは、芸団協が今回のテーマと密接な係わりがあるためです。まずは、芸団協という組織の成り立ちと、業務内容についてを説明します。
講座6の復習になりますが、芸団協は「実演芸術振興事業」と、「実演家著作隣接権センター(CPRA-クプラ-)事業」の2つを柱としています。
「実演芸術振興事業」は、実演芸術関係団体の稽古場と事務所の機能を持ち合せた文化拠点「芸能花伝舎(げいのうかでんしゃ)」の運営をはじめ、イベントや講座などのさまざまな文化振興事業をおこなっています。この沖縄県アーツマネージャー育成事業も、、沖縄県から芸団協が事業委託を受け、「実演芸術振興事業」のひとつとして実施をしています。
「実演家著作隣接権センター(CPRA)業務」は、実演にかかわる著作隣接権の権利処理をおこなっています。芸団協は、文化庁長官より、商業用レコードを放送等で二次利用する際の使用料、レンタル等で発生する貸レコード使用料・報酬を、実演家に代わって受け取る「著作権等管理事業者」として指定されています。
・放送局やレンタル店から使用料を徴収→実演家・権利者への分配
・ドラマ等の放送番組の二次利用(再放送やDVD化など)の際の許諾および使用料の徴収を代行→権利者に分配
具体的にはこうした業務を行っています。まさに、実演家をはじめとする権利者に密接に関わる仕事なのです。
これらを踏まえた上で、講座の前半は、著作権法に定められた「実演」と「実演家」の定義について考えました。現行の著作権法上において、「実演」と「実演家」は以下のように定義されています。
著作権法「第二条」(定義)
三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
四 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
実演の定義が「著作物を、」という書き出しになっているので、歌詞や楽譜、台本など、著作物として形のあるものを上演することだけが実演のように考えがちですが、なにより重要なのは生身の人間によって演じられるものであるということ。しかし、実際には分類の難しいものもたくさんあります。
サーカスには人間顔負けのパフォーマンスをする動物もたくさんいますし、最近では会話や演技をするアンドロイドも登場していますが、現行の著作権法上においては、彼らは実演家とはいえません。しかし、カッコ書きで「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む」となっています。なので、サーカスや猿回しなども、ショー自体は実演として考えられています。
では、生身の人間によって演じられるものは本当にすべて実演になるのでしょうか?
増山さんは、プロレスやフィギュアスケート、ファッションショー、さらには相撲も、実演と言えるのではないかという見解を示しました。自身がステージ上に立つわけではない演出家や振付家、シンセサイザーのプログラマーも、著作権法上においては立派な実演家です。芸能実演家団体で構成される芸団協の会員団体にも、 日本演出者協会 や 日本モデルエージェンシー協会、 日本シンセサイザー・プログラマー協会 といった団体もあります。
先ほど実演を定義する上で重要な前提として、生身の人間によって演じられるものであることが挙げられましたが、著作物と違って、音楽や演劇などの実演は「実演そのもの」を保存することは出来ません。保存するためには、音声や映像などの形で記録を残していくことになります。
記録メディアの登場に伴ってレコードや映画が産業として飛躍的に発展しました。しかしこれは、それまで実演のたびに相当の対価を得てきた実演家たちにとっては、活動の機会を奪われるという結果にもなってしまいました。(それまではテレビもラジオも生放送だったので実演家の活躍の機会は多かったのですね)
こうして脅かされた実演家の権利を守るために登場したのが、著作物の創作に係る人々の権利「著作隣接権」なのです。
そして講座後半は「実演家の権利」について。
実演家に認められている権利は大きく2つに分けられます。「氏名表示権」や「同一性保持権」などの「実演家人格権」と、「排他的権利(著作隣接権)」や「報酬・補償金請求権」などの「経済的諸権利」です。
さらに、生で行われることが前提である実演において実演家に認められている権利は、CD化やビデオ・DVD化される際に生じる「録音権」「録画権」、放送される際に生じる「放送権」「有線放送権」、インターネットにアップロードされる際に生じる「送信可能化権」の大きく3つに分けられます。
今回の講座ではおもに、音楽に関する実演家の権利について掘り下げていきました。
たとえば、録音権の許諾に基づいて録音された商業用音楽CDが創作されたときは、どういった権利が発生し得るでしょうか?
・録音物(音楽など)が、販売という本来の目的以外(放送など)に利用される際には、「二次使用料請求権」。
・レンタルショップなどで貸し出しが行われる際には、「貸与権」。
私たちが生活のなかで何気なく見聞きしたり、利用していたりするなかでも、使用や流通の形態に伴っていくつもの権利が発生しています。
そして、こうした権利をもつ権利者は、録音物を制作した実演家として芸団協CPRAが把握しているだけでも全国約15万人にも及びます。
これだけの数の権利者がいるとなると、テレビ番組でBGM等でも音楽を使用する際、放送局が一人ひとりの実演家へ個別に二次使用料を支払っていたのでは、膨大な時間と労力がかかります。レンタルショップでのCD・DVDレンタルの場合も同様ですね。
そこで考えられたのが、権利者である実演家から委託を受けた特定の団体が、権利者に代わって使用料の徴収・分配を行う「集中管理」です。そして、それを行うのが冒頭で説明した「実演家著作隣接権センター(CPRA-クプラ-)事業」なのです。
このアーツマネジメント連続講座には、文化施設や芸術団体にお勤めの方々の他に、ご自身が実演をなさる方々も多く受講されています。
今回のテーマを通して、自分がどういった権利をもっているのか、あらためて理解を深めることが出来たでしょうか。
実演芸術・芸能に携わる方々のあいだでも、「実演家」や「著作隣接権」といった言葉そのものも、実はまだ周知が十分とはいえません。
自分の権利をまもり、また他人の権利を侵害しないためにも、芸術活動に係る皆さんには基本的な知識としてぜひ身につけていただきたいと願っています。
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☆著作隣接権や実演家の権利については、CPRAウェブサイトでも詳しく紹介しています。
また、芸団協の実演芸術振興事業についてもウェブサイトを中心に随時情報発信しております。ぜひご覧ください。
実演家著作隣接権センター(CPRA) http://www.cpra.jp/
芸能花伝舎・実演芸術振興事業 http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/