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2015.07.16

アーツマネジメント連続講座 講座④『公演を制作する―企画実現へのプロセス』6月1日レポート

DSC08824講座④『公演を制作する―企画実現へのプロセス』の1日目は、KAAT神奈川芸術劇場技術監督の堀内真人氏にお越しいただきました。

今回は、「プロダクションマネジメント」「プロダクションマネージャー」という2つのキーワードを軸に、ひとつの公演を作り上げる際の体制づくりに関する新しい考え方について学びました。

 

まず、堀内さんが作成された「プロダクションの構成(例)」という図表を参照しながら、舞台作品の製作に関わる人たちの職能・職域について確認しました。舞台製作には、プロデューサー、演出家、舞台監督、オペレーターなど、実に様々な職能の人々が複雑に関わりあっています。

では、堀内さんが現在なさっている「技術監督」や「プロダクションマネージャー」という仕事は、これまでの「舞台監督」と具体的にどこが違うのでしょうか?

日本のプロダクションやカンパニーにおける舞台監督は、演出家の要望を聞きながら音響・照明・舞台美術の担当者と調整を行い、稽古や仕込みのスケジュールを立て、図面を書き、劇場と打ち合わせをして、大道具の発注をして、場合によっては制作担当と予算を一緒に管理して…というように、実に膨大な仕事を一手に引き受けています。

しかし、舞台監督に求められている一番大事な仕事は、「本番を始めて、終わらせる」こと。つまり、出演者の安全を絶対確保しながら、出演者と演出家がともに稽古で作り上げた作品を最大限の質で上演することです。しかし、劇場が大規模化し、事業もかつての貸館中心から創造発信型に移行してきている現状で、舞台監督が前述の膨大な業務を行いながら本来の職務を遂行することは至難の業です。

そこで、「舞台監督」が本来の業務に専念するために、その他の業務を引き受ける人が必要になってきました。それが、「プロダクションマネージャー」と呼ばれる人たちです。さらに、「プロダクションマネージャー」の職域から技術的な業務を抽出して、「技術監督」と呼ぶこともあります。

DSC08839つづいて、「作品製作の流れ」という資料をもとに、「作品企画/キャスティング」から「上演初日」を迎えるまでの間、どのような人たちが、どのような業務・作業にあたっているのかを確認しました。「プロダクションの構成」を縦軸、「作品製作の流れ」を横軸に見ることで、ひとつの作品が出来上がるまでの人と時間の動きが立体的に浮かび上がってきます。

次に、少し視点を変えて、堀内さんが普段お使いになっている「バジェットシート(予算表)」を見ながら、公演を製作するにあたってどのような費用が発生するのか、その経済的側面について見ていきました。会場費はもちろん、大道具や小道具、照明、音響など舞台製作に必要な物理的経費から、それらを稼働するのに必要な人件費に至るまで、公演を成立させるためには多くの経費を要します。従来、予算管理は制作の仕事とされてきましたが、舞台製作に目配せができる立場からこれを行うのも、プロダクションマネージャーの職能のひとつとされています。

プロダクションマネージャーという職種が日本において初めて登場したのは、今から15年ほど前だそうです。
堀内さんはプロダクションマネージャーの必要性を強調されたうえで、無理して配置する必要はないとおっしゃっています。カンパニーの規模によっては、従来通り制作と舞台監督が中心となって舞台製作を行った方が良い場合も多くあります。
しかし、公演における安全性を確保するうえで、舞台監督の業務量が障害になっているようであれば、プロダクションマネージャーの配置を検討する価値は十分にあります。

DSC08830そして最後は、その「公演における安全性」、すなわち「リスク・アセスメント」について。

演出家などのクリエイティブリーダーは、作品を少しでも良くするために様々なアイデアを出してきますが、場所や時間、人員、予算といった条件にはいずれも限りがあります。限りがある中で無理をすれば、当然のことながら事故のリスクはどんどん高まります。
そして、そうした状況下で事故が起きた場合、その責任は演出家でも技術者でもなく、プロデューサーが負うことになります。

これらを回避するために重要なことは、まず危険性のある事項を洗い出し、リストアップし、公演に関わる全員が共有すること。つまり、コミュニケーションです。

様々な作業が複雑に絡み合うひとつのプロダクションにおいて、各セクションの要望や要請を一括で捉えた上でそれを配置し直すことができれば、セクション間の無用ないさかいも減り、公演製作における安全性は飛躍的に高まります。
そのためには、双方向のコミュニケーションが不可欠です。これも、プロダクションマネジメントの果たす重要な役割のひとつと言えます。

実演芸術の現場に携わる方々にとってシビアな内容でしたが、堀内さんの丁寧な語り口により、理解を深め安全性に対する意識が高まったのではないでしょうか。
公演における安全管理については、講座9「公演の安全管理―劇場と技術」で、実際の舞台や機材にも触りながら一層理解が深くなると思います。

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