2015.06.06
アーツマネジメント連続講座 講座②『事業企画をつくる』5月18日レポート
講座②『事業企画をつくる』1日目の講師は、国立劇場顧問の織田紘二さんをお迎えしました。
織田さんは、昨年、一昨年に国立劇場おきなわで上演された新作組踊『聞得大君誕生』(主演:坂東玉三郎)の総監修・製作総指揮もされており、沖縄の芸能には大変ゆかりの深い方でいらっしゃいます。
冒頭は、織田さんのご経歴の紹介から。国立劇場(東京)は来年で開場50周年を迎えますが、織田さんはその翌年からお勤めでいらっしゃいます。お話ひとつひとつが、まさに国立劇場の歴史そのものです。
制作、舞台技術、大道具、衣装、床山に至るまで、劇場にいるすべての人が、既存の興行会社や職人組織から集められた寄り合い所帯であった開場当時の国立劇場。その膨大な数の人々をひとつにまとめ、国立劇場としての独自の「色」を持ち始めるまで調整を続けるのが自分の仕事であったのではないか、と振り返ります。
現在ではプロデューサーやマネージャーと呼ばれるような人々のことを、かつては「奥役(おくやく)」と呼んだそうです。その奥役の心得を記した「奥役十訓」というものがあり、明治時代は門外不出とされていたそうですが、その十訓のうちのいくつかをご紹介くださいました。
軽妙な語り口から次々と飛び出すエピソードに、思わず会場も笑いに包まれます。
続いて、国立能楽堂や新国立劇場も含めて、独立行政法人日本芸術文化振興会によって運営されている6つの国立の劇場についての概略と、上演されている舞台芸術の種類を確認しました。
なぜこれらの劇場が国によって運営されなくてはならないのか、理解が深まったのではないでしょうか。
そして本題である、演目の選定と制作については、おもに歌舞伎に即してお話くださいました。
昭和41年11月に上演された国立劇場開場記念公演『菅原伝授手習鑑』のパンフレットには、「国立劇場における歌舞伎公演はどんな方針で行われるか」という、国立劇場の基本方針に関する一文が掲載されていたそうです。その基本方針には、「原典の尊重」「通し狂言での上演」「復活狂言の上演」「戯曲の創作の奨励」など7つの要件が挙げられています。この「基本方針7項目」は、今日でも「伝統芸能公演」の制作の根本要件として、平成15年に現在の独立行政法人に移行して以降も踏襲されているとのことです。
この基本方針に則して上演された「国立劇場 開場記念公演一覧」を見ながら、それぞれの公演においてどのような調整が行われたかなど、制作上の苦労や秘話をお話しくださいました。
ここで、ひとつの作品を制作する上で最も大事なことの一つに「分かりやすいキャッチフレーズをつくる」ということを挙げられました。この公演では何がやりたいのか、何を見てもらいたいのか、これらを誰もがわかる言葉にしたものがキャッチフレーズです。
たとえば、「開場○○周年 記念公演」などの大見出しを打つ。これもキャッチフレーズのひとつ。このキャッチフレーズの名のもとに関係者の意向を調整し、いつもとは違う番組を構成することができます。
また、国立劇場で行われている『歌舞伎鑑賞教室』では、子どもたちにとって「初めての歌舞伎鑑賞」であると同時に、若い俳優にとっても「初めての大役」となるような演目を打つ。こうしたコンセプトを明言化するのもキャッチフレーズの役割となります。
キャッチフレーズは、外にアピールするだけでなく、創る側の人間がその作品のコンセプトを共有する役割も担います。
最後に、歌舞伎研究家で織田さんの師でもあった郡司正勝さんから言われたという、「自分が観たいものをつくりなさい」という言葉が紹介されました。
ともすれば誤解を受けやすいメッセージですが、「自分が観たいと思ったものをお客さんが観たいと思わなかったら、プロデューサーとしての資質はそれまで」という大変厳しい意味が含まれています。それゆえに楽しんで作るべきという、企画や制作に携わる「やりがい」と「責任」の表裏があらわれた言葉ですね。
織田さんがお話くださったプロデューサーやマネージャーの心得は、伝統芸能の世界だけでなくすべてのジャンルに共通するのではないでしょうか。