2015.05.29
アーツマネジメント連続講座 講座①『文化政策と芸術活動の経済的成立』5月11日レポート
いよいよ「アーツマネジメント連続講座2015」が開始しました!
今年度は、5月11日から8月1日まで、全11テーマ、計17日間の講座を実施します。
講座①のテーマは、『文化政策と芸術活動の経済的成立』について。
初日となる5月11日(月)は、文化芸術に関する公的助成のエキスパートである、石田麻子さん(昭和音楽大学オペラ研究所教授/独立行政法人日本芸術文化振興会プログラムオフィサー)を講師にお迎えしました。
当日は季節外れの台風直撃が危ぶまれる中、50名もの方々が受講されました。
冒頭で、「芸術文化」の価値をどのように説明するか、それが「文化芸術」に携わる者にとっての命題だ、と語る石田先生。様々なシーンで使われる「芸術文化」、「文化芸術」、「文化」、これら3つのがそれぞれ何を指すのか、その違いを確認するところから始まりました。
また、アメリカの寄付文化を象徴する一言として、破格の富豪として知られるメトロポリタン歌劇場・リンデマン副理事の言葉を紹介。「我々には公共性の高いものを支援する義務がある。ただ、何に対して支援するのか、それについては選択する自由がある」という力強い言葉に、会場から思わず感嘆の声が漏れました。
続いて、「なぜ文化芸術は助成や寄付を受けなければ活動が成立しないのか」という難問に挑んだ、ボウモル=ボウエンによる「コスト病」の言説について。芸術のコスト病について初めて言及された本として知られる『舞台芸術 芸術と経済のジレンマ』(芸団協出版部:現在絶版)は、「演奏会は経済的効率が追求できるのか」、「上演回数が増えたら観客数や収入も増えるのか」といった、誰もが考えつつも漠然とした答えしか出せなかった問いに対して、明確な解が与えられた好著として知られています。
さらに、コスト病に対する現代の解決手段として、メトロポリタン歌劇場によるオペラ公演の映像配信などのビジネスモデルや、巡回公演・共同制作などによる製作費シェアの具体例などを見ていきました。
コスト病に続き、これからの芸術文化活動における避けがたい問題として、「人件費(物品費)の高騰」、「助成金の減少」、「自己収入の低迷」の3点が挙げられました。
講座の後半は、コスト病および上記3点の問題に関して、最も有効な解決手段である「助成」と、その下支えとなる「文化政策」について概観しました。
文化政策における「文化芸術の振興と普及へ向けた方策」には、「支援行政」、「保護行政」、「設置者行政」がありますが、実演芸術分野に関しては「支援行政」、すなわち「助成」が一番身近な存在となります。
日本においては海外と大きく異なり、これまで歌劇団、バレエ団、劇団などの民間芸術団体が芸術文化の振興と普及を担ってきました。したがって、助成も民間芸術団体を中心とした芸術文化活動への支援が中心となっています。
しかし、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた文化プログラムや社会包摂など、文化芸術に期待される社会的役割を果たすためには、各地域の劇場・音楽堂等への支援も重要であり、またそれらを遂行するために専門的な知識と経験を携えた人材の育成が喫緊の課題となっています。こうした現状に対し、官民それぞれが果たすべき役割分担について、石田先生は以下のように整理されました。
■国 ・・・ 国家戦略としての支援による振興と普及、人材育成
■地方公共団体 ・・・ 地域活性化が主眼
■民間団体 ・・・ 主体的かつ自由な創造活動へ
次に、芸団協が作成した「実演芸術団体、文化施設から申請可能なおもな助成金一覧」を参照しながら、国、芸術文化振興基金、国際交流基金、それぞれがどのようなコンセプトに基づき、どのような助成を行っているのかを概観しました。
その上で、「日本版アーツカウンシル」と言われる日本芸術文化振興会の現役プログラム・オフィサーでもある石田先生に、「どう評価するのか(助成金を配分する側の論理と受ける側の論理のせめぎあい)」や「審査基準(審査員はどこを見ている!?)」といった、担当者ならではの視点とリアルなお話をしていただきました。
最後に、沖縄からは助成金の申請が少ないことに触れ、沖縄の可能性、沖縄の文化芸術の価値をもっと外に向けてアピールしてほしいというメッセージをくださいました。
初回から盛りだくさんな内容でしたが、連続講座として次回以降のテーマにも続く充実した講座となりました。