2017.03.31
アーツマネジメント研修派遣 平成27年度研修修了者報告会(9月25日)レポート[討論]
後半は、研修受け入れ先、研修へ現職者を送り出した県内団体から担当者を招き、効果的な人材育成の方法と、今後の人材活用の展望を議論しました。
岩﨑 巌 氏(石川県立音楽堂 事業部長)
蔭山 陽太 氏(ロームシアター京都 支配人兼エグゼクティブディレクター)
平田 大一 氏(公益財団法人沖縄県文化振興会 理事長)
進行:小越 友也 氏(宜野座村文化センター がらまんホール 企画担当)
・研修報告を聞いて
宮城紗来さんの現職の上司にあたる 平田氏(沖縄県文化振興会)は、研修を修了した2人の報告を聞いて、プレゼン力の高さに感心したという。助成金や協賛金の申請時には、自身の事業の文化的意義をプレゼンする能力が必要とされるが、沖縄にもそのような力を持った人材が育ちつつある事は、本事業の大きな成果のひとつ。また、この研修が現場の空気に触れる絶好の機会であることを2人の報告を聞いて実感した。沖縄県内の人材が県外の施設や人材と結ばれていくことで新たなネットワークが生まれるという面では、本事業が単なる個人の人材育成ではなく、沖縄県の文化振興の裾野を広げている、とコメントした。
蔭山氏(ロームシアター京都)は、劇場のオープン前後というなかなか経験し難い時期の研修となり、何かを教えるというよりは、一緒に大変な時期を乗り越えた仲間のようで、受け入れる側も勉強になり、刺激になったとコメント。
岩﨑氏(石川県立音楽堂)は、研修者の方々が、沖縄に戻ってからも研修で得たネットワークを通じて事業交流を行い、そのネットワークが全国に網の目のように張り巡らされたら、怖いものはない。人と人とのネットワークをつくり、成功した喜びを共感できる仲間を全国に増やしていくことが大切。新しい日本の文化をつくっていくためには、芸術家を育てるのと同じくらい、マネジメントやプロデュースの出来る人材を育てていくことが必要だとコメント。
西川氏は、基調講演でイギリスのウエストヨークシャー・プレイハウスの話をしたが、自分が地域における劇場の役割というのを考えるようになったきっかけは、このイギリスの地方都市へ研修に行ったことが元になっている。外に出て今までにない経験をする、長いスパンで見てそういう体験をしたことが、次の新しい試みに繋がっていくという意味からも、今回の研修者の2人には大変期待しているとコメントした。
小越氏(がらまんホール)は、研修へ送り出した経緯としては、石山君にぜひ外の世界を知って何かを持ち帰ってほしかった、という思いを吐露。自身も、琉球大学で学ぶために沖縄に来て、その後シュガーホールの中村透先生の元で経験したことが、ホールの在り方についての考えが変わる原体験だったという。
・文化芸術を支える人材育成
西川 人材育成というと、どうしても技術的なことばかりになりがちだが、人材育成の前に文化政策がきちんとあることが重要。地域ごとにある文化政策の基本の考えを知り、そこからどういう人材が必要か、養成するにはどうしたらよいかということを、こちら側から整理して行政に提案しないといけない。文化政策として、この地域にとってこういう劇場で、こういうことをやることが人と人を繋げていくんだという事を、きちんと整理したほうがよい。
小越 ちゃんとした理論やプレゼンの仕方。そういうものがあって行政に納得してもらうというのは必要だと思う。
西川 もうひとつ大切な事は、公的な資金が入っている場合は、最終受益者は市民。この当たり前の基本の考えを持っていないと、つくる側のやりたい事が優先して、一般の人が置き去りになってしまう。アーティスティック・ディレクターと経営の責任者であるエグゼクティブ・ディレクターの2人が一緒になって劇場を運営していくが、イギリスでは、それが地域のためになっているか審査する委員会もある。
小越 専門家を集めて審査をする場をつくる、そういう環境を整えてもらうことが人材育成にもつながるのではないだろうか。
・人材発掘とその活用
平田 人材発掘に関しては、アーツマネージメント人材と言っても、こういうことをしてもらいたいというのを具体的に発信していかないといけない。沖縄に限らず日本では、プログラム・ディレクターが企画・制作をし、ライセンサーがマネジメントをするという海外の事例のようにはいかず、芸術監督が全てやっているような状況。人材発掘をするために、まず、どんな人材が必要なのか、我々の考え方を整理しなくてはいけない。
蔭山 人材募集に関しては、ロームシアターは100%貸館だった京都会館から、自主事業もやる劇場にリニューアルオープンするということで、劇場のミッションを考えた上で、必要な専門人材を集めた。技術スタッフに関しては、最新の設備を持つ大中小3つの舞台芸術専門劇場を安全に運営できる人材を集めるのに苦労した。実際には、他劇場どで十分に経験のあるスタッフにも声をかけ、リーダーとなる人材を集めることができた。
岩﨑 全国の10数館が集まってオペラを共同制作し、文化庁「劇場、音楽堂等活性化事業」のネットワーク構築支援事業を活用して、対象経費の補助を得ている事例もある。予算の少ない地域ホールでも、共同制作に参加することで、自己資金が少なくても事業実施が可能となる。また、こういう事業を通して、ネットワークも広がり、新たな企画にも繋がっていっている。
・アーツマネジメント人材に求められる資質
西川 文学座では、地域の環境、生活環境が悪くなり、生徒の約3割が退学してしまう事態が起こった高校で、毎年演劇ワークショップを行った。すると、生徒たちの中に自己肯定感が生まれ、生活の改善につながったということがあった。高校生たちの中に眠っているものを起こす時に何が必要かというと、技術を訴えることよりも、目の前に対面している人間と正直に、素直に向き合うということが一番大事。アーツマネジメントであれ、人との交流が大事なので、正直に交流する、そういうことが基にないと進むことも進まなくなる。
蔭山 私がこの仕事に入った時は、日本にはアーツマネジメントという言葉すらまだなかった。この数十年の間に大きく変化している。一方で、現実には、全国に約2000館あると言われる劇場・ホールの中で、芸術監督やプロデューサー、高度に専門的な技術スタッフを有する創造発信型の劇場はおそらく20館くらいか。劇場間、地域間で極めて大きな格差が生じている。これからのアーツマネージメント人材は、これらの格差を課題として捉えて、どう解決できるのかということを、視点として持たなければならないと思う。
岩﨑 アーツマネジメントの仕事に求められるものは非常に広範囲にわたるが、この劇場はこの地域にあって、どういう作品を創り出して、どういう作品を外から持ってきて、市民・県民に提供しなければならないのか、というコンセプトをしっかりと持つことが重要だ。
小越 本当にホールというのは、いろいろな問題を抱えてはいるが、その地域に根差したテロワール(土地)を大事にしたホール運営をしたいと思う。
平田 やはり沖縄らしいアーツマネージメント人材の育成があると思う。社会や地域との関係を考える上で、必ず地域の有力者、地域の芸能団体、地域のコミュニティと相対しなければならない。その時に、コミュニケーションをしっかり取れる力が大切。アーツマネジメント以前に、まずはセルフマネジメントできる人材が必要。その上で、育成していくにあたって、大学、文化政策、文化行政がそれぞれの役割を連動していくことが大切だと感じる。
小越 皆さんで一緒に、人材を育成しつつ、その人材を活用しつつ、芸術文化のあるべき未来を見据えていきたいですね。