2016.03.31
アーツマネジメント研修派遣 研修修了報告会(2月2日)レポート[第1部:宮城氏、大崎氏、吉田氏]
2016年2月2日(火)、那覇市小禄の沖縄産業支援センター大ホールにて、「アーツマネジメント研修派遣 研修修了報告会」が開催されました。
当日は、県内の文化施設や芸術団体の関係者、市町村の文化行政担当の方など約50名の方にご参加いただきました。全国的にも先進的な取組として、沖縄県のこの事業に対して関心を持っていただけたものと思います。
まずは、沖縄県文化観光スポーツ部文化振興課の前原正人課長から開会の挨拶。この報告会が県内外の文化芸術に携わる人々の情報交換の場となり、またアーツマネジメント人材の育成への理解を深める機会になっていくことへの期待が述べられ、報告会がスタートしました。
研修者からの報告に入る前に、この事業の事務局を務める公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協]の藤原職員より「アーツマネージャー育成事業」について、事業概要を説明。
5年計画の3年目である今年度までの取組内容と実績について報告しました。
第1部のトップバッターは、東京芸術劇場にて約1年間におよぶ長期研修を終えたばかりの宮城紫乃さん。
宮城さんは4カ月を1タームとして、演劇事業を主に担当する「事業第二係」、広報・宣伝や票券などを担当する「広報営業係」、音楽事業を主に担当する「事業第一係」の3つの事業係にて順次研修を行いました。
最初に配属になった事業第二係では、提携公演を含む貸館事業を担当。
今まで沖縄県文化振興会の担当者として劇場を借りる側の経験はありましたが、貸す側としての経験は初めてだったので、どのような作業がどの提出物にリンクしているのかを、双方の立場に立って理解する機会になったそうです。
広報営業係では、招待状の作成や送付、とりまとめなどの基本的なことから、実際の公演招待受付なども担当されました。広報営業係での研修期間中、出演者の体調不良によって急遽公演が中止になるアクシデントがあったそうですが、チケット料金の払い戻しや振替公演開催決定など、突発的な事故への対応が勉強になったとのこと。
これらを踏まえ、宮城さんは沖縄の伝統芸能の公演における招待状のありかたに疑問を呈するとともに、指定席導入の提言をしました。
沖縄におけるチケッティングサービスについては他の研修者の方も課題と感じており、解決が期待されます。
事業第一係では、野田秀樹氏の演出で大きな話題になった、全国共同制作プロジェクト『フィガロの結婚~庭師は見た!新演出』の秋季ツアーに帯同しました。ツアー帯同中は、楽屋割やスケジュール、出演者の旅程などを各館と調整し、発注の確認作業を行ったとのこと。そのほか、制作会議への出席や、稽古の立ち会い、ソリストのアテンドなども行ったそうです。
秋季ツアーへの帯同を通して東京芸術劇場以外の施設の方々とも一緒に仕事をしたことで、研修の目的のひとつでもあったネットワークや人脈の構築もすることができたと語る宮城さん。そして、今回の研修を通して、沖縄もこういった全国規模の事業に参入し、全国の情報を共有していく必要があると痛感したそうです。
宮城さんは沖縄県文化振興会に復職することが決定しました。劇場を抱えていない財団がどのように県外と連携し、舞台制作に取り組んでいくか、どのように人脈を広げ事業を拡大していくかを今後の自身の課題としてやっていきたいと語ってくださいました。
2番目は、石川県立音楽堂で約3カ月の研修を行った大崎正和さん。
大崎さんは研修開始のトップバッターでしたので、研修修了からすでに1年以上が経過しています。
ご自身は長らく音楽活動をされていましたが、研修を経てその後の考えや活動にどのような影響があったでしょうか。
大崎さんがこの研修派遣を志望されたのは、研修を通して自分のスキルを見直し、新しいことを吸収する必要があると感じられていたからだそうです。
研修中に撮りためた写真をもとに、実演家としても活動されている大崎さんならではの視点で、研修先である石川県立音楽堂や金沢の街の様子を伝えてくださいました。
金沢県立音楽堂は、新幹線も停車するJR金沢駅に直結する複合文化施設ですが、その利便性から貸館事業もかなりの稼働率を誇っているそうです。
研修期間中は休みの日を利用して、他の地域の劇場や音楽堂も積極的に訪問されました。
アーツマネジメント連続講座の講師をお勤めくださった堀内真人さんのいらっしゃるKAAT神奈川芸術劇場や、同じく連続講座講師の森岡めぐみさんのいらっしゃる大阪のいずみホールにも足を運ばれたとのこと。
また、2015年2月15日に上演されたオーケストラ・アンサンブル金沢『ペール・ギュント』に向けては、ドイツ語台本を日本語に訳してたたき台をつくるという、声楽家としてのバックグラウンドがある大崎さんならではの大役を任されました。
研修を終えられてからは、福祉と保育の専門学校「沖縄中央学園」で音楽の教鞭をとられています。
また、「沖縄中央学園」の姉妹校、「沖縄ブライダルモード学園」において、アーツマネジメントに関わる連続講座の講師も務められたそうです。
沖縄県で推し進められているリゾートウエディングに携わるスタッフを養成すべく、学校も規模を拡大しています。
この講座の中で、挙式における演奏の歴史やスタイル、音楽著作権、照明や音響の器具とその効果など、ブライダルマネジメントに必要な知識を網羅的に教えているとのこと。
この講座で学んだ知識を実践で生かすべく、模擬挙式なども行ったそうです。
沖縄県立芸術大学をはじめとする芸術系大学への進学を志望する生徒さんの指導にもあたられている大崎さん。人材育成の立場からも今後の活躍が期待されます。
第1部前半最後の報告者は吉田真和さん。
吉田さんは、沖縄の伝統芸能を継承していく実演家が、将来的に「職業」として成立するためにはどうすればいいのかということをずっと考えてきました。
そのためには、実演家を支える立場の人々=マネジメントの存在が必要であると感じ、沖縄でも応用可能な制作や実演家組織の運営、普及活動などの在り方を見いだすべくこの研修を志望されました。
吉田さんは、横浜能楽堂と公益社団法人 日本舞踊協会の2か所で研修を行いました。
まずは、横浜能楽堂での研修報告から。
吉田さんは、研修を通して感じた横浜能楽堂の特徴を、徹底した数値管理、企画力、集客力の3点に集約しました。
歴史ある能舞台で、様々な伝統芸能の公演をプロデュースする横浜能楽堂。公演のほとんどが自主制作の企画になっており、いずれの公演もいつも満席になることで知られています。
横浜能楽堂は通を唸らせる公演だけでなく、普及目的の「狂言の日」や「バリアフリー能」、「横浜こども狂言会」など、目的別の企画と事業展開でターゲット層に沿った訴求を行っています。
チケットのセールス状況などを数値化して共有し、戦略を日々ブラッシュアップ。そして、固定の顧客を逃がさずにいかにして新しいファンを増やしていくかを考える。
横浜能楽堂のこういった取組を間近で見られたことがとても勉強になったそうです。
続いて、日本舞踊協会での研修について。
吉田さんは、日本舞踊協会において文化庁や東京都が主催する各種事業に携わりましたが、その中でも各種補助金を活用した事業が最も印象深かったとのこと。
現在、沖縄には沖縄県文化振興会をはじめ、文化芸術団体を対象としたいくつかの支援制度が存在していますが、吉田さんはそれらを活用できる組織がなかなか育っていないのではないかと分析しています。
そして、活用のノウハウを実演家団体が習得し、その上で法人化など必要に応じた組織体系を取っていくことが活動を拡大させる上で不可欠であると述べました。
今までは、実演家が公演ごとに交代で制作を担当するといった、実演家が豊富な沖縄ならではの公演制作のやり方もあるのではないかと考えていたそうです。
しかし、研修を終えて考えを整理していくなかで、資金調達やブランディングなどマネジメントに係る専門的な業務は、相応の専門人材が担当するべきなのではないかと考えるようになってきました。
そして、研修を通して得た経験や知識、人脈などを活かして、制作のひとりとして沖縄の伝統芸能の発展に寄与していきたいと語る吉田さん。
最近では、うちなー芝居「演」で事務局を担当することが決まったそうです。
組織運営はもちろん、広報やブランディング、補助金活用など、吉田さんが2つの研修先で学んだことが、この事務局での活動においても活かされていくと思います。
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